
第1話
1月某日
TEPの組長、宮本拓から電話があった。
今年の5月か6月にかなり規模の大きな自主映画上映会を計画しているのだが、その総合司会をしてくれないか、というのである。
名前はカワサキ、仕事はコテサキ、喋りだしたらクチサキヒロユキなんてな軽口をいつもたたいてるので、MCが得意だろうとおもわれてるのだろうが、実は人前で喋るのは大のニガテである。でも、誰あろう大親友の宮本拓からの申し入れである。断る理由がどこにあろうか? それに自分だってかつては8ミリカメラ片手にかけまわっていたわけだから、参加したいという気持ちもある。そんなこんなでOKと返事をした。
1月某日
数日前の宮本拓からの電話がまだ尾をひいている。
ここ何年か、ことあるごとに「そろそろ映画つくりたいなぁ」と言い続けてきた。
それでも手を出さなかったのは、本業のシナリオ執筆が超多忙だったからだ。だが、それも去年に節目を迎えたと感じていた。シナリオライターである以上いつかはやらねばと思っていた、テレビシリーズ全話総脚本執筆を、『機動新世紀ガンダムX』という作品でやることができたからだ。なんとなく……あくまでもなんとなくなんだけど――あ、これって何か大きな流れがひとつ終わったんだな、と思っていた。
その矢先にあの電話だもんな。そうか、上映会か……。
1月某日
ついに決心。10年ぶりに自主映画を撮ることに決めた。
さっそく宮本拓に電話を入れる。宮本、我がことのように喜んでくれる。同じTEPのメンバーであり、生業のシナリオでは弟子にあたる高山カツヒコも同様である。これには大いに勇気づけられた。なにせこちとら撮影やら照明やらといった技術的なことはからっきしわからない。学生時代に卒業制作として監督した『地底鋼人マグマテウス』という作品でも、自分でやったのはシナリオと絵コンテまで。本編の撮影は撮影監督の鋤柄君に任せっきりだったし、特撮にいたっては宮本に特撮監督としてすべて一任したのだ。
こんなんで大丈夫なんだろうか、仕事との両立はできるのか、と不安が募る一方で、でもやっぱりオレ映画作るんだ、という喜びも大きい。とにもかくにもやると決めた以上は、すべての力を注ぎ込んで、悔いのないように、死ぬ気で遊ぼうと思う。
さて、今のところ直面している問題は、はたしてどんな映画を作ろうか、ということだ。 恐ろしいことに、まるでビジョンがないのだ。はてさて、どうすべえ……。
1月某日
自分の撮りたい映画が、あっちいったりこっちいったり、心の中でコロコロと転がっていてなかなかカタチにならない。頭の中にある企画は6本、これらがみんなして不完全なのでイライラが続く。
こんな気持ちであっても、お仕事はしなくちゃね。というわけで今年の年末に発売されるOVA『サクラ大戦』のシナリオのためのミーティングに参加する。その会議に参加していた小説家にして親友のあかほりさとる氏に自主映画のことを喋ると、彼がとんでもないことを言い出した。撮影に使えそうな建物に心当たりがあるというのである。こいつは飛んで火にいる夏の虫――これぢゃ悪人だよ、訂正――渡りに舟とはこのことだ。その建物は3階建てのビルで、取り壊しの予定が6月だとか。ロケ地が決まった、ということで、急に発想が具体的になる。
1月某日
やっと企画が決まる。ここに至るまでには多くの模索があった。
まず、なんといっても上映会が宮本拓映像個展であること。彼の名前がはいったイベントである以上、不出来な作品であってはならない。むしろ、イベント全体をもりあげるような企画でなければならない。当日に上映されるラインナップは、すべて戦争アクションや戦闘アクションがメインのシリアスムードの作品であるという。しかもオールナイト上映であるから、観客を飽きさせないためにも、上映作品のバリエーションは必要だ。以上の理由から、こちらの作品は、コメディーカラーの要素が不可欠である。
次にスケジュール。5月か6月に上映会となると、使える時間はそう多くはない。加えて他の作品も同時に制作中なのだから、撮影のスケジュールの狂いは未完成という最悪の結果を招きかねない。そこで、天候が読めない外のロケは一切使わない、密室モノ、あるいは外の風景はすべて特撮で処理することが望ましい。
そして、今、みんなに何が可能か? シナリオは私、これは問題ない(だってプロだもん)。撮影や照明、ミニチュアワークは宮本拓。小道具と火薬、銃器の類は高山カツヒコ。造形は長沼弘幸と佐々木邦一郎。音響と音楽はまだ未定。ミニチュアについては自分もわずかながらやれる。
最後に、内容面での検討。自主映画であっても、やっぱり、現代のお客さんが観てオモシロイ! といってくれる内容でなければならない。今時の流行で自分もオモシロイと思うとやっぱりXファイルとか、そういうのだな。コメディータッチのXファイルか。うーん、今イチ。グレイって流行っちゃってるけど『木曜の怪談』にまで出てるぐらいメジャーだもんな。でもアレっていいよな、キャラクターとして認知されてるけど版権フリーみたいだし。
ん……? 待てよ、他にもああいう宇宙人いるじゃん!!
みんな知っててすごい有名だけどまだ映像化されてない奴が!!!
3メートルの宇宙人。
決まりっ!
かくして僕の企画のキャラクターは3メートルの宇宙人となった。
これですべての素材がそろった。
僕の作るべき映画は――密室劇で、銃器アクションがあって、3メートルの宇宙人が出てくるコメディータッチ、という内容だ。密室劇でガンアクションとくれば、銀行強盗とかの立て籠もりとか、とういう犯罪がらみがいいだろう。いや、宇宙人と関連づけるなら銀行強盗より”誘拐”の方がイイ。
こうして僕の映画のタイトルが決まった。
その名も『宇宙大誘拐』という。
―― つづく ――
次回予告
ついに動き出す『宇宙大誘拐』。だが、いざシナリオ執筆に入る前に重大な問題がふりかかる! それは自主映画を作る者なら誰もが直面する哀しい現実。あるいは日陰に生きる男たちの乗り越えられない壁。その問題とは――どっかに映画に出てくれるカワイイ女の子はいないのかぁぁぁぁぁッ!
カントクの熱い魂の叫びは映画の神様に届くのだろうか!?
次回、第2話
『爆映展』開催まで、あと、126日。

第2話
2月某日
このところ本業は執筆活動よりも別なことでいろいろ忙しい。
ガンダムXのLD用に高松信司監督と対談やったり、ラジオにゲスト出演したり、文化放送『佐竹雅昭の覇王塾』では、毎年恒例(なんだろうか、3年連続というのは)のバレンタイン特別企画で短編ラジオドラマを執筆&出演という年に一度の暴挙をやる。この企画、メインパーソナリティーの佐竹雅昭氏&林原めぐみ嬢、ゲストの平松晶子嬢いがいの出演者は全員シロートという冗談企画。スタジオ収録の時にそこらをウロウロしている関係者に強引に出演してもらうのだ。態度の大きい人が意外と緊張クンだったり、おとなしい人がけっこうイケイケだったりして、ほとんど自主映画のノリで楽しいのである。
で、自主映画といえば『宇宙大誘拐』なのだが、出演者をどうするか、で悩んでいる。
ストーリーの骨はほとんど完成している。出演者は自分と高山カツヒコ、それにライター仲間の金巻兼一氏にお願いしている。自分が出るのは出たがり、というよりスケジュールの問題+シロート役者を演出してイライラするぐらいなら、自分で演じてしまえ、という短絡思考である。ヨゴレ役なので他人に頼めない、という理由もある。
高山カツヒコの出演も、スケジュール問題と、彼の場合は見た目がすでにキャラクター化しているのでOK(『目覚めよと呼ぶ声あり』でのトキムラの怪演は宮本演出とあいまって絶品)。金巻氏はライブ活動やラジオなどでのパーソナリティーの経験もあるので、その度胸と繊細そうな見た目の雰囲気をかってお願いした。
さて問題は主人公となる女の子である。
主人公なのでスケジュールはシビア。しかも見た目に美しく、お芝居もある程度できないと(他のメンバーが自分を含めてシロートなので余計に)困る。でもそんなヒトなんて この世におるんだろうか??
そういえばこの問題って映画つくってた高校時代から悩みのタネだったんだよなあ。
女子演劇部に頼みにいって断られたりして……。そりゃそうと高校時代に作品に出てくれたすげー美人の高橋恵サンは今ごろどこで何をしているだろうか? 今となっては片思いだった山下千佳サンより気になったりして。
ともかく……あの頃の悪夢がよみがえる。
2月某日
『覇王塾』のラジオドラマを執筆していたら、金巻氏から彼の参加しているバンド『ゆら』のライブの報せが届く。『ゆら』は金巻氏が以前に参加していたラジオ番組のパーソナリティーの女の子のひとり、千葉千恵巳嬢がメインボーカルをつとめるバンドである。ずっと前にその番組にゲストとして出演させてもらったのだが……そのことを思い出してハッとなる。
そうだ、千葉千恵巳嬢に出演して貰えないだろうか?
自主映画を作るなんて夢にも思ってなかったあの頃、ラジオ収録のスタジオで千葉千恵巳嬢を見た時、ああ、このコって映像向きの顔立ちだなあと思ったんである。
この映像向きな女のコというのは、私の持論であるので、ちょっと解説が必要かもしれない。肉眼で見て美しい女のコというのは、カメラを通すと二つに分類される。いいところだけがくっきり際立つコと、その反対のコである。これはなぜだか理論的には判らない。判らないのだけど、まちがいなく本当にそうなのだ。
千葉千恵巳嬢はまさしく前者だ。一度逢っただけなので、まるで面識はないのだが、金巻氏を通してお願いしたら、もしかしたら出て貰えるかもしれない。あんだけ美人ならスケジュール面では多少ゆずってもオツリはひゃくまえんだ。
というわけで金巻氏にさっそく連絡。金巻氏、交渉してくれるとのこと。
うまくいきますように。
2月某日
昨年の夏からチーフライターとして加わっている某アニメーション(あえて名は伏せる)が暗礁に乗り上げる。これで何度目かのストップである。第1話から第3話まで何度もシナリオを書いているのだが、これだ、という方向性がメインスタッフから提示されずに大いに弱ってしまう。急激にヤル気がしぼんでいく。
本業がトホホな展開とはウラハラに、『宇宙大誘拐』は大きく進展。金巻氏から連絡が 入り、千葉千恵巳嬢、かなり前向きに検討してくれているとのこと。これはとびあがらんばかりに嬉しい。
いよいよシナリオ執筆に入れそうだ。指先からヤル気がバチバチ火花を散らして放電しているような気持ちになり、一気にハコ書きを完成させる。
2月某日
がんばって早起きして午前10:30。文化放送にて『覇王塾』のバレンタインドラマ 収録。毎年のことながらメチャメチャに緊張するのだが、いざ本番になると不思議と平気。台本があるとこうなんだよなオレ。どちらかというとフリートークの方がニガ手なのだ。今年は寅さんのパロディで、大好きな大道芸関係に触れられたので自分的には楽しかった。
収録を終えて新宿に移動。アニメイトから頼まれていた『カリスマ』というCDドラマの台本を手渡し。これで急ぎの仕事はすべて脱稿。自由の身となったので、自宅に戻っていよいよ『宇宙大誘拐』の準備稿を書きはじめる。
2月某日
シナリオ準備稿、脱稿する。本業の執筆とちがって自分が撮る作品というのは別な難しさがあった。けっこう苦労した末にイメージ通りの物語をゲット。さっそくコピー原稿を数部こしらえて今後に備える。
夜、高山カツヒコと合流。渋谷のライブハウスで『ゆら』のライブを観る。千葉嬢に出演依頼をしていると知った高山、ステージで歌う彼女の姿に「彼女が出てくれるなら勝ったも同然だね」と言う。何に勝つのかよくわかんないけど、なんとなく気持ちは判る。
ライブ終了後、千歳烏山デニーズにて宮本拓と合流。その場でシナリオを読んで貰い、具体的な撮影プランの検討に入る。宮本と高山の意見、総じて「これならもっとこうした方がおもしろい」というものばかり。こちらは「出来そうもないことはやらない」というコンセプトでシナリオを書いていたので、けっこう直しが多い。でも嬉しい直しである。余談だが、プロの実写(特撮モノ)シナリオを何本か経験したが、こんなことは出来ないとか、これはもっと簡単にして、という意見ばかりだった。そのせいできっと筆が萎縮していたのだろう。
撮影プランの内容は、基本中の基本。なにで撮るのかということ。こちらはフィルムが いいと思う(8ミリか16ミリ)のだが、現像のタイムロス、リテイクなど、スケジュールを考慮した場合、ビデオという方向もあると宮本から提案。メカに詳しい高山によれば DV(デジタルビデオ)なら問題はないという。こちらはビデオはまるで経験がないので 物怖じしてしまうのだが、これは検討の予知がありそうだ。
それにしても宮本拓の対応の速さが素晴らしい。誰かに連絡しなくちゃ、となるとすぐにケーデンでアポを取るし、ロケ先が決まってるといったら即座にロケハンのスケジュールを決める。このフットワークの軽さは見習わなくては、と思う。
2月某日
シナリオ改訂稿の執筆。それと鈴木寿氏に音楽を依頼する。鈴木氏は僕が学生時代に監督した『地底鋼神マグマテウス』で音楽を担当してくれた人で、今でこそ一児のパパであるが、幼少のころからピアノをやっており、昔はバンドでキーボードを担当していた。電話にて内容を伝えると快く音楽を引き受けてくれる。
宮本拓から連絡。イベントプロデューサの穂山賢一から、このあいだ午前中新宿駅で自分を見かけたとのこと。午前中に新宿駅にいたとなると、『覇王塾』の収録日しかない。
いやはや世間は狭い。宮本拓よりイベントの開催日、6月7日(土)、BOX東中野で正式決定。その名も『爆映展97』となる、とのこと。
「もう後戻りはできないねえ」と受話器を通して聞こえる宮本の声が弾んでいる。
聞いていた自分にもふつふつとヤル気がわいてくる。
がんばってシナリオ書かなきゃ!
2月某日
建国記念日。シナリオ改訂作業が続く中、ロケハン。撮影場所となる廃ビルに宮本拓と赴く。建物はそんなに大きくないが、持ち主から「どうせ壊すんだから何やってもいい」との約束をとりつけているのが良い。カメラと準備稿を手に、建物内を歩き回る。宮本はノートに部屋の見取り図をサラサラと書き上げる。やっぱプロって感じである上に「この天井の蛍光灯を弾着でバババババって全部割らない? 宇宙人が移動するたびに」言うことがダイタンである。
さまざまなデータを収穫して、本日のロケハンは終了。充実の一日だった。
深夜、例の暗礁に乗り上げていたアニメーション企画、撤退を決意する。
撤退の理由を明確にすると現在稼働中の全スタッフの士気をそぐので、いわゆるすっぽかしをかますことにする。ワルモノでけっこう、ギャラもいらない、とにかく中途半端な執筆だけはしたくないのである。
でも人間ってこうやって世間を狭くしていくんだろうな(違うか?)。
2月某日
シナリオ改訂稿、ついに脱稿する。すぐさまご近所のあかほりさとる事務所に赴きコピー機を占拠。配布用の台本を作る。
午後より新宿にて『サクラ大戦OVA』の打ち合わせを済ませた後で、金巻氏、千葉千恵巳嬢と顔合わせ。千葉嬢の出演、正式にOKとなる。これは大進展。さっそく完成したばかりのシナリオを渡す。途中で顔を出した高山カツヒコ、徹夜あけで恐ろしいほどのハイテンション。おめー千葉嬢と初対面なんだから少しは気をつかえバカ、と思う。あ、違ったホントは口に出して怒ったんだ。
その日は金巻氏とふたりでひさしぶりに酒を呑む。
氏の音楽活動。こちらの自主映画。分野はちがえど「好きなことをやる」という意味においては同じで、お互い三十すぎてフラフラ遊んでることが楽しくてしょうがない。アニメ業界の人間って、お酒が入るとグチかウワサか自慢話のどれかなんだけど(かくいう自分もそうである)この夜にかぎってはその手の話はいっさいナシ。アマチュアリズムの甘ったるさ、といえばそれまでかもしれないが、音楽活動を語る金巻氏の姿に、先日、電話でウキウキしていた宮本拓がダブって見えた。
金巻氏と別れてから、悪いクセが出て、新宿をひとりで呑み歩く。
呑みながらツラツラと考える。
映画のガッコで宮本拓を始めとする仲間に出会って、それとはまったく関係ないシナリオ業界で金巻氏に出会って、その流れで千葉嬢に会って、その、まったく別々だった流れが、もうすぐ合流しようとしているわけで、これってなんか不思議だなあ、と思う。我らがTEPと千葉嬢、ウマが合うかな。心配だけど楽しみでもある。
千葉千恵巳嬢については、もう大感謝。自主映画を手伝ってくれる女のコなんて、まさに天使の如くありがたい。
とにかくシナリオが完成した。
―― つづく ――
次回予告
艱難辛苦の末、ついにシナリオが完成した。だが、映画作りの苦労はここからが本番だ。膨大な撮影コンテ作り。小道具、大道具の手配。スケジュールの調整。トクサツもある以上、それら準備も必要だ。そんな超多忙な中、またも企画は新たな暗礁に乗り上げる!!!
次回、第3話
『爆映展』開催まで、あと、98日。
すみません。このごろちょっと忙しくて、この日記をまとめているイトマがありません。久しぶりにTVのシリーズ構成をやっているのですが、やっぱり週イチペースというのはハードでして……この場を借りてお詫び申し上げます。
さて、傍らにありますこの写真は、日記に登場した千葉千恵美嬢でございます。
彼女と我が親友である金巻氏が参加しているバンド”ゆら”が今度、ひさしぶりにライブをやるというので、頼まれもしないのに告知してしまいます。 場所は吉祥寺『MANDA−LA2』、日時は'98年5月9日(土曜日)、18:30開場、19:00開演、入場料は¥2000円。
当日は、ぼくや高山や、TEPの良心桜井に加えて、ボスこと宮本も参加してカメラを回す予定になってます。不思議さとドライブ感が妙にマッチした耳に心地イいい”ゆら”の音楽、あなたも一度体験してみてはいかが?
川崎ヒロユキでした。
3月某日
近所の文房具屋で、電動式のえんぴつ削りと、ちょっと濃いめの鉛筆を1ダース買う。
絵コンテを描くためである。
絵コンテ用紙はTEPの親分、宮本拓にわけてもらった彼専用のモノ。 これを200枚ばかりコピーしていざ絵コンテ描きのスタートである。
絵コンテを描くのは、これが初めてではない。 今から10年前、某映画専門学校の卒業制作で監督をやらせてもらつた時に、本編・特撮あわせて全カットのコンテを切ったことがある。 作品のタイトルは『地底鋼人マグマテウス』。 聞いてまんまの巨大ロボット特撮アクションだ。
あのころ同学年には今のTEPのオリジナルメンバーがいた。 学年のリーダー的存在だった宮本拓。 造型を得意とする長沼弘幸。 特殊機材の設計やコンピューター関係を得意としていた高山カツヒコ。 他にも有能な生徒たちがたくさんいた。
このスタッフで子供向けの特撮映画を作ってみたい。 それが僕の企画の狙いだった。 巨大ロボットは出てくるけどアニメやナントカ戦隊のパロディではなく、オリジナリティあふれた特撮作品を作ろうと燃えていたこの作品で、はじめて絵コンテを切ったのだった。
で、その時に得た教訓――――
★その1、まずはミニコンテを切ろう。
絵コンテ用紙があるでしょ? あれにイキナリ絵を入れていくのではなくて、まずは小さくて簡単な絵コンテ用紙をつくって、ここにドバーっと絵を入れていくのです。 で、試行錯誤するのです。 それこそ、編集作業のようにカットを差し替えたり、挿入したりもこの段階ですませてしまうのです。 で、この作業の時に注意すべき点が……
★その2、とにかく減らすことを考えよう。
絵コンテはやっぱり頭の中で考えているので、どうしても絵がゼイタクになってしまいます。 それにカットも増える傾向にあります。 そこいらへんを注意してミニコンテをいじり倒して、いよいよ、本チャンの絵コンテを作る作業に入るわけですが、この時に注意すべき点が……
★その3、本番の絵コンテは絵の上手下手より、シロクロはつきりと。
すごーく絵が上手ければ問題ないのですが、僕の場合はあんまり絵がうまくありません。 でもそんなことよりも注意しなくちゃならないのが、コピーの問題。 絵コンテは現場のスタッフに配布するためにたくさんのコピーをとらなくてはいけません。 ですので淡いタッチで描いてもほとんど意味がないのです。 ちなみに僕の場合はサインペンでシロクロはっきりとした絵をガシガシ描きます。 で、絵コンテとおなじく重要なのが……
★その4、文字情報をおろそかにしない。
絵コンテはたいてい横にカメラワークやセリフなどを書き込むスペースがあります。 絵を描き続けているとついついおろそかにしがちなここの文字情報をしっかり書いておくと、撮影の時にとっても便利です。 そう、便利といえばもうひとつあるのが……
★その5、完成したらしっかりとじよう。
完成した絵コンテはかなりの厚さになります。 これを撮影現場に持ち込むわけですが、現場というのはかなりハード。 クリップやホチキスではゼッタイにバラバラになるのが関の山。 ここはしっかりとじておくと後々便利です。 僕の場合は大型のホチキスで綴じたあと、ガムテープで補強しています。
――というわけで、10年前の教訓を心に思い描きつつ、絵コンテを描いていく。
でもこの作業がねぇ〜。 ひどく面倒なんだよねえ。 ロケハンの時の資料を観たり、小道具の製作状況など考えたり、スタッフと電話で相談したりして、とにかく連日絵コンテを切る。
ひさしぶりにペンダコが出来た。
3月某日
絵コンテが完成した。
ここで次の作業へGO! といきたかったのだが……アマチュア映画の哀しさ、本業が入ってきてしまった。 今やってるのは人気ゲーム『サクラ対戦』のオリジナル・ビデオ・アニメーション全4巻のシナリオの構成である。
生活のためだけだったらそれなりに割り切っちゃうのだけど、なにせシナリオを書くのも大好きなので、こっちにも気合いが入ってしまう。 結果、カラダがボロボロ。 でも、学生時代専門学校に通いながら新聞配達やっていた事を思えば(そーなんです。 私、実は新聞奨学生だったんです。 しかもこの当時からプロのライターとしてデビューもしてたんだから、いったい何足のワラジを履いてたんだか)大好きなシナリオで糊口しのいでアマチュア映画を作れるんだから、これはとってもシアワセなことなんだろうなと思う。
本業に従事するかたわらスタッフ・キャストのスケジュール調整を行う。 クランク・インは今月の23日に決定となる。
また、機材や各種小道具、造型物の発注も開始する。 衣装や持ち道具など、買って済むものは僕の担当。 銃器と弾薬は火薬の扱える高山カツヒコが担当。 劇中マンガは知人の工藤あきら氏に依頼。 UFOのミニチュアは佐々木邦彦。 3メートルの宇宙人は本編用の1/1、特撮用の3尺サイズ共々長沼弘幸に依頼する。
そうそう、今さらながら作品をDVで撮ることに決めたので、いずれソニーVX−1000とその周辺機器を購入しなければならない。
とにかく今は、早く『サクラ対戦』終わらせなくちゃ。
3月某日
今月も半ばをすぎて、ようやく本業が終わる。
クランク・イン まであと一週間しかない。 うげーっ、もう時間ねえじゃねえか! 大慌てで準備に入らねば……というわけで凶は千葉千恵巳嬢の衣装の調達だ。
ちなみに10年前の『マグマテウス』の時も衣装を購入した。 これはファッションに対するこだわり……よりも、撮影の相手の自前の衣装だと汚れとかを気にしてしまうのがイヤなのである。 それに、勝手にクリーニングに出されてカットがつながらなくなったりとかもありそうだしね。
午前11時、主役の千葉千恵巳嬢と渋谷で合流して、彼女用の衣装を探し歩く。 必要な衣装はオープニングとエンディングで彼女が着るもの2点。 これはエスニックな普段着というコンセプトでけっこうすんなりと決まる。 エスニック専門店では使えそうな民芸品を発見。 ついでに購入しておく。
問題なのは本編で彼女が着るいわば”よそいき”の格好だ。 けっこう売れてる女流マンガ家という設定なので、あんまり貧しい格好は不可。 でもリアリズムを追求してもなぁ点実際の女流マンガ家さんって、すごーくシンプルなモノトーンとか、その反対にプランドに走るか、インチキな女占い師みたいな人しかいないんだなこれが。 そっちもなんか違うし……と迷いつつ歩き回ってやっとみつけたのが千葉嬢いわくナントカモモラとかいうブランドのスーツ、インナーが黄緑でアウターがオレンジどっちも蛍光色というシロモノ。 カタチがシンプルなのに色味が大胆なのが気に入ったのでコレに決定する。 ちなみにオレンジとグリーンという色の選択は、3メートルの宇宙人にシンクロさせてもいたりする。
それはそうと今日は、日常ほとんど行かない婦人服売場がチトはずかしかった。
3月某日
今日は新宿で小道具の買い出し。 劇中に登場する誘拐犯の衣装を揃える。
誘拐犯を演じるのは僕と金巻氏と高山カツヒコなわけだが、シロートの芝居はどうにも目がいけない。 緊張から来る不自然にまばたきや目線の表現力のなさ等、セリフ回しとあいまってここがシロート役者の説得力のないところである。 そこでサングラスを使用することにする。 サングラスについては、前に妙なカタチのをハンズで見たことがあったのでこれを購入。 まん丸で真っ黒なゴーグルタイプで、鼻にカバーのついてるもの。 おそらくバイク用か何かなんだろうけどよく判らない。 このグラスをもとにして、上下を黒の皮でまとめる。 現実には決してない誘拐犯だが、ケレン味のある映画なのでこれでイイのだ。 その根底には、かつて大人気だったテクノバンドDEVOのプロモに登場するような妙な紛争のイメージがある。
自宅に戻って衣装をつけてみる。
なんかスゴいと思った。
3月某日
今日は日中に携帯電話を購入する。 これは劇中に登場する小道具であるのだが、ついでに『爆映展』スタッフ専用の回線とする。
夜は絵コンテをもとに宮本拓と打ち合わせ。 撮影の大まかな流れを確認する。 宮本拓自身の作品『砂丘の残像』もいよいよ大詰めを迎えているようだ。 とにかく毎日が怒涛のように忙しいのは彼も同じなようだ。
3月某日
出演に先だって、床屋に行って髪型を整える。 少し色を抜いて貰った。 撮影中はこの髪型を維持しなくてはならない。
床屋を済ませてから、撮影初日に使用するドライアイスを注文しに電話帳で探した三軒茶屋の氷屋さんへ行く。 なんとドライアイス専用のスモークマシンまであると聞いて大喜び。 さっそく手配して貰う。
その後で熊谷に移動。 ソニーのデジカムVX−1000を買いに行く。 なぜ熊谷かというとなぜか都内でVX−1000の在庫がなく、埼玉在住の高山カツヒコが地元でみつけたのをキープして貰っていたからである。 カメラを買うとやっぱりワクワクするなあ。
その足で今度は両国へ。 撮影に使用する火薬を購入しに行く。 これは火薬取り扱い免許のある高山が注文しておいたもので、こむずかしい書類を書かされた。 僕は火薬の知識がないので「カバンに入れても爆発とかしませんか?」と聞いて火薬屋のオヤジに大笑いされた。 だって怖いんだもん。
とにかく忙しい一日だった。
3月某日
宮本拓と桜井彰に合流して、都内某所のロケ地の廃ビルに機材を運び込む。 クランク・インは僕の自宅と仕事場で撮影が行われるので、それ以降に使用する機材は今日ですべて搬入を終える。 昨日の疲れがドッと出て、テンションが低い一日だった。 でも、ここで踏ん張らないとな。
3月某日
ロケを行う廃ビルへとおもむき、まずはロケ地周辺のご近所に挨拶して廻る。 なにせ火薬を使う場面があるので、警察になどに通報される前にひとこと顔を出しておこうという作戦だ。 それに撮影が始まれば、怪しい男たち(って我々のことだ)が出入りすることになるわけで、オ○ムとかに間違われたりしたらそれこそ一大事だもんね。 というわけで手土産のお菓子を持って、周辺のお宅を挨拶してまわる。 素人さん相手ということで、大型のHi−8のカメラをわざと担いで(カメラ持ってないと怪しまれてドアを開けてくれないと思ったのだ)ニコニコ笑顔でごあいさつ。 どこのお宅もみな理解があって良かった。
ご近所の理解が得られたので、さっそく今夜から怪しいことをしちゃおう。 というわけでビルの窓を黒ラシャ紙で遮光していく。 これは劇中がすべて夜だからである。 数時間かけてすべての窓に黒ラシャを張り終える。 作業が終わって外に出たら夜だった。
3月某日
クランク・イン前日。
まず宮本拓が「あると便利だよ」と言っていたレフ板を作る。 スチレンボードにアルミを貼ったもの2枚。 これくらいならなんなく造れた。 続いて明日の撮影で使う自宅と仕事場の模様替え。 机を動かしたり、撮影にいらないものはとにかくどかしたりと四苦八苦。 そのあと三軒茶屋の氷屋さんへ行ってドライアイスとスモーク・マシンを引き取る。 スモーク・マシンのでけえことでけえこと。 タクシーのトランクにどうにかおさめて自宅に運び込む。
夜、宮本拓とスタッフが機材を自宅に運び込む。 かくして我が家は機材であふれかえってしまう。 みんなと軽い打ち合わせをして、一日が終わる。
ガラリと様子のかわった部屋で、ひとりビールをなめつつ(呑むと明日の撮影に支障を来すからね)明日のことを考えていると……電話が鳴った。
電話の相手は金巻氏だった。
なんと明日の撮影と、それ以降のスケジュールに変更があるというのだ。
血の気の失せる思いで詳しく話を聞くと、どうにもこちらが組んだ撮影スケジュールとの折り合いがつかないことが判明する。
明日はいよいよクランク・インだというのに。
どうしよう……。
―― つづく ――
次回予告
クランク・イン直前になっての変更!
だが、もう後戻りはできない。
いよいよ撮影が始まる。
だが我々に与えられた時間は、一週間しかなかった……。
次回、第4話
『爆映展』開催まで、あと、76日。
