
『ワッカのうちのひとつが消えた』
戦前のドイツには、ベンツ以外にワンダラー、DKW、アゥディそしてホルヒという大きな自動車メーカーがあり、この4社が連合して“アウト・ウニオン”と呼ばれる共同体を形作っていた。アゥディの4つの輪のトレードマークはこれを象徴したものだそうだ。ホルヒは1934年に始まったドイツ軍用車両の合理・規格化戦略であるアインハイツ計画に従って大型乗用車のシャシーを開発、生産していたが、敗戦後のドイツでは“アウト・ウニオン”4社のうち、ワンダラーとともに消滅。平和になった世界の市場に二度と新車を送り出すことはなかった。幻の自動車メーカーである。
ヤケにでかくて大仰なラジエターグリルの作り出す、何だかエラソウなツラガマエ。四半世紀前、タミヤがキット化しなければ、こんなクルマがあったことなどほとんどの子供は知らなかった。そのうち小学生上級くらいになってナマイキにも写真集とか読んで、迷彩服来たコワそうなドイツ兵のあんちゃんが乗ってるこいつの写真を見つけて「あっ、タミヤのホルヒだ!」なんてね。ホルヒだっ、ぢゃないんだ。タミヤのホルヒだっ、なんだよね。キットの発売は1975年。この前後1、2年のタミヤMMは燃えている。凄いラインナップ、マニアライクなアイテム選択。このへんで今の屈強なミリタリーオジサンが育っている。このキット、78年頃に2センチ高射機関砲とハコ乗りするSSのお人形さんくっつけて再デビューしている。密かな人気アイテム。2センチ機関砲とSSの迷彩スモックが強烈に印象に残っていたため、映画『プライベート・ライアン』の後半の市街戦、「とぅえんてぃみりーっ!ぱおぱおぱおぱおかんかんかんかんどぐぢゃ〜っ!」のシーンでは、何となくこのキットのボックスアートがアタマに浮かんでしまった。


私のモデルは90年代初頭に、2センチ砲の付いていない初期のバージョンが店頭で売れ残っていたのを見つけ、懐かしいしホロ付きで作ってみたくて購入、すぐに作ったもの。ライトの裏側にコードを追加する程度の工作でストレイト組み。塗装は大戦後期の3色迷彩だが、これはまったくの気まぐれで、こんな車体があったかどうかは不明。古いのが生き延びて、D−DAYの頃までジャーマングレイの車両がいたり、ハノマーク251もDじゃなくてタミヤのと同じCがいたりもするし、いろいろあったんじゃないかなぁ、なんてね。「いや、絶対ありません」という資料があったバヤイはごめんなさいネ。こういった車両は情景写真を撮ったりするとき、主役から一歩引いて、遠景の空間を埋めるのに重宝する。芝居のうまいエキストラみたい。同じ軍用乗用車なので米軍のダッジあたりと並べて比較してみるのも楽しいし、コレクションアイテムとしてはちょっと逃したくないクルマだ。
