海底軍艦“轟天号”
フジミ(設定1:700) 製作(2001)/文 宮本 拓
★月刊モデルグラフィックス2002年3月号掲載作品★




『男気さく裂!超ド級特撮娯楽巨編一大プラモデル』

 敗戦間際、大型の伊号潜水艦に乗って日本を離れた海軍士官の一団があった。

 彼らは南海の孤島に身を潜め、究極の秘密決戦兵器である空中戦艦“轟天”をその執念で建造せしめ、じっと再起の時を待った。

 しかし皮肉な運命が彼らを襲う。苦戦を強いられた第二次大戦よりの大反撃と世界転覆を悲願としていた彼らは、海底深くより侵攻を始めたムー帝国より世界を救うため、全人類の存亡を双肩に背負い、再び起つこととなったのだ――――。


 明治時代、日本空想科学小説の開拓者と呼ばれる押川春浪によって書かれた小説を大胆に脚色、舞台を現代(映画の製作時期である昭和30年代)に置き換えて製作された東宝特撮映画1963年度作品『海底軍艦』は、本多・円谷両監督の正攻法の演出と俳優陣の堅実な演技、そして伊福部昭氏の勇壮な劇伴に支えられ、製作期間わずか3ヶ月という異例の悪条件をも克服、見事なクリーンヒットを飛ばした。

 爾来、本作品は日本SF映画の名作として長く語り継がれることとなった。


 私は昭和40年生まれなのでリアルタイムで『海底軍艦』を観ていないが、後のリバイバル公開などで何度か観る機会を得て、大変印象に残る作品として記憶していた。

 学生時代の『レイダース・失われた聖棺』に代表される海外の冒険活劇映画が数多く公開されていた時期に「昔は日本にも海底軍艦みたいな映画があったのになァ」と溜息をついていたのが懐かしく思い起こされる。

 その内容もさることながら、故・小松崎茂先生によってクリエイトされた万能戦艦轟天号のデザインは、大胆さとシンプルさが程良く調和して作品世界のカラーにも完全にマッチしており、時代を感じさせぬ、また世界に誇れる名メカニックキャラクターとして高い完成度を誇っていたと言っていいだろう。



 海底軍艦“轟天”のキットは今までにもインジェクション、レジン製ガレージキットなど幾つかが存在していたが、万人に勧められるハイクォリティーかつコストパフォーマンスに優れた製品はなかなか登場してくれなかった。

 そこへ、このキットの登場である。待っていたファンも多いのではないだろうか。



 ――インターネット上で活躍しているベテランモデラー氏の集うサイト等を通して、岸川 靖氏とお知り合いになれる幸運に恵まれ、氏より海底軍艦プラモデル化の情報をうかがったのは2001年の夏だったと思う。

 ときおりいただくお電話では、岸川氏を通してフジミに提供された資料等をもとに鋭意製作が進行している状況が生々しく伝えられ、またあるときなどキット開発のための繊細な図面等の資料も拝見する機会を得て、私はその方面にズブのシロウトながらも、一個のプラモデルを白紙の状態から具現化するという気の遠くなるような作業を痛感してさかんにエールを送ることを繰り返していた。

 ……かくして2001年10月、フジミの海底軍艦は多くの艦船モデラーに長く親しまれている1:700スケールの本格的組み立てキットとして勇躍店頭に並ぶこととなった。


 それと前後して、古典的プラモデル研究の第一人者、高見敬一郎氏が運営するサイト「プラモデルの王国」で“世界でいちばん早いキットレビュー”が展開されることとなり、高見氏をはじめとした実力派モデラーが参集、様々な趣向でこのキットを製作、披露していくこととなった。

 古典的なキットを、その時代背景も含めたうえで愛情いっぱいに紹介、内容を詳細に検討するかたわら、単なる懐古趣味に終始することなく、本キットに代表される“ニューカマー”も積極的に取り扱う「プラモデルの王国」さんの熱意に賛同し、私も及ばずながらお手伝いさせていただくこととなった。


※ 海底軍艦・世界最速キットレビューを展開した高見敬一郎氏の古典キット研究サイト『プラモデルの王国』はコチラ!


 私は「劇中登場する秘密地下ドックのディオラマを」というオーダーをいただき、鼻腔膨らむ思いで取り組んだのだが、いやはや、やれ仕事だ体調不良だなんだで遅れに遅れ、12月アタマになってようやく完成にこぎつけるコトが出来た。

 この時間経過の中で様々な事態の変化も生じ、岸川氏の思惑もあってアレヨアレヨという間に拙作がモデルグラフィックス誌上で公開されることになってしまった。

 製作は仕事の合間をぬって途切れ途切れに続けられ、また工作途中のディオラマベースがどうも歪みがひどくて新たに作り直したりと、やや手間取ってしまったものの、計算してみると実働60時間ほどの作業の産物。

 有名誌に載ることになるんならもっと丁寧に作りゃあよかったかなと反省しきりである。


 轟天は、岸川氏より提供された先行発売バージョンをまずは完成させたのだが、モタモタしているうちにアルミ削りだしの三重らせんドリルや手すり、レーダーを再現したエッチングパーツが付属した豪華版がリリースされ、急遽完成していたモデルからプラ製ドリルとウォーターラインシリーズ用を流用したレーダー等のエッチングパーツをもぎ取って差し替えてしまった。メインブリッジ下段の手すりがキットと異なるのはそのときの名残である。このキットをお買いになった方々はキット付属のパーツを使用することをお勧めする。


 塗装は、なるべく巨大感を強調しようと軍艦色を基本に数色をエアブラシで吹き付け、細かい描き込みによるエイジングとドライブラシ、ウォッシングで仕上げてみたが、劇中登場する轟天はこんなに汚れてはいない。
 コレはあくまでワタシ個人の「長い年月、封印されていた巨大なフネ」というイメージを再現した結果であり、皆さんにはもっと撮影用ミニチュアに近い塗装でキットの持ち味を生かした塗装を楽しむことをお勧めしたい。

 また、このモデルではフジミの塗装指定に合わせて艦底色を塗っているが、実際には一段上の凹モールドに沿って塗り分けたほうが正しいようだ。



 ドックのディオラマベースは、これまた岸川氏よりお預かりした海洋堂製バキュームキットを参考にしつつプラ板で基本型を作り、岩盤が露出している部分には鉄道模型用のコルク片を貼り付けてこしらえている。

 しかしまァ……自分の不器用さにホトホト呆れてしまった。
 先にも述べたが、プラ板の箱組みでベースを作っていると、歪むユガム!

 一個めはあまりの醜さにカンシャクおこして分解し、2回めの工作でかろうじて納得するというアリサマ。工作の基本技術がまるでなってないんだ、コレがまた(^^;)


 ―― 特撮セットというのは、基本的なセッティングが完了して「ヒキ」のマスターショット等を撮った後は、キャメラポジションの都合などによって飾り付けの直しやレンズ手前に置く「ナメ物」の変更が頻繁に行われるのが一般的で、レイアウトは常に変化している。このディオラマも一枚の記録写真をなぞるのではなく、画面内の印象的な要素……トラスやクレーンなど……に焦点を当てて、総合的な映画の印象をコンパクトにまとめるように心がけて製作してみた。


 大型クレーンはウォーターラインシリーズのパーツを利用したが、劇中のものより大柄なため、似せようと改造はしたもののフォルムがかなり異なるものになってしまった。

 トラス構造の柱と小型クレーンは1:700艦船モデル用のエッチングパーツである。もっと導入したかったがいかんせん高価で、コレが限界である。


 轟天本体はベースに固定しておらず、別途準備した展示ベースに置くこともできる。



 ―― この金属ドリル付き豪華版キットには様々な資料が満載されたリーフレットが付属するが、これに関しても岸川氏ご自身が「キットをつくるとき、コレは何の本を見つけて……と、資料探しに時間を割かれるまどろっこしさをなくすため、これ一冊さえあればOK的なものを目指した」とおっしゃっていたとおり、ディオラマ製作にあたっていちばん重宝した資料は何と言ってもこのリーフレットで、他の資料を引っ張り出してくる時間がまったく不要だった。

 イキオイあまって、このリーフレットを利用して背景の裏側に小松崎茂氏の描いたデザイン画を添付してみた。



 1:700で全長が20センチたらずとかなり小振りなため、もっとボリュームが欲しかったと思われる方も多かろうが、実際に作ってみるとフルハルモデル、シーウェイモデル、飛行状態モデル、そして各部の可動と様々な表情が楽しめ、1:700という国際的な艦船モデルの主流スケールを採用しているだけあって同サイズの艦船や豊富なアクセサリーと組み合わせ、工夫次第で様々に遊べる逸品である。

 SFを愛するすべての方にコレクションをお勧めしたい。



★巨匠 小松崎画伯、逝去★


 本作品のデザインワークを担当された小松崎茂先生が2001年12月7日、86歳で逝去されました。
 戦前から空想科学図画の世界で活躍し、戦後は初期東宝SF作品のデザインワークやプラモデルのパッケージアートの世界などで精力的な活動を展開。『地球防衛軍』も『海底軍艦』も、小松崎先生なくしては成立しませんでしたし、田宮に代表される国産プラモデルが世界的に認知されるまでの苦難の時代を影に表に支えきった巨匠でした。
 生涯現役のプロとしての気概を貫いた異能の画家、小松崎先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。