"Scale"




  2003年10月、古くからスケールモデルに定評のある田宮模型から、第二次大戦中にドイツ軍が多用した小型乗用車キューベルワーゲンの1/48スケールモデルキットが発売されることになった。
  この情報が流れるや、各模型趣味系ウェブサイトの掲示板等で様々な意見が出され、それらを興味深く拝読させていただいた。

  現在では1/48というスケールは航空機プラモの主流として君臨している。

  実は私は1/48というスケールの大ファンである。
  ところが、そんな気持ちとは裏腹に、もうかれこれ15年以上に渡って1/48の航空機プラモを作っていない。
  作りたいけど、結局ガマンした……というのが本音だろうか。

  ―― それは何故か?

  好きな1/48で飛行機のプラモデルを作っても、それと組み合わせる(または並べて比較したりして楽しめる)車両等のキットが皆無に近く、手に入れようとすれば今では絶版となっている70年代のバンダイ製1/48戦闘車両キットを苦労して入手したり(しかも古いぶん、マジメに取り組んで作るにはいささかホネの折れる品である)または欧米のメーカーが散発的に発売している極めて高価なガレージキット系製品を購入することとなり、いずれにしても多大な出費や工作上の苦労は否めず、好きなスケールだけに「つくっても飛行機単体で楽しむ程度しか手がない」という寂しい思いを殊更強く感じてしまい、好きでありながらも敢えて作らないようにしていたのである。

  1/48というスケールでは、あれほど航空機が充実していて、欲しいと思う機種で手に入らないものは無いとさえ思えるほどなのに、車両となるとほとんど手に入らない……このギャップの大きさに恐れをなして、気持ちが離れてしまったのである。

  そんなこともあって今回の田宮1/48キューベルの登場は私にとっては大変な朗報というか、これでようやく1/48の航空機も広い視野で存分に楽しめる地盤が新たにつくられるのではないか……という希望を持てるキッカケとなった。
  1/48航空機モデルは手頃な大きさ、適度な精密感に好感の持てる大きさであり、また軍用車両は1/35に慣れ親しんではいるが、1/48で作ってみると実に可愛らしく、精密感というか凝縮感が心地良いモデルに仕上がる。
  このふたつのジャンルのアイテムが同一スケールで楽しめる意義は大きいと思う。



  ―― さて、先に各模型サイトのことを述べたが、実際に読んでみると本当にいろいろな視点からの意見があり、それが結局は1/48スケールにとどまらず、模型のスケールそのものの意味に関して言及するものにもなっていて、大変興味深かった。

  例えば、航空機モデルに長く親しんだ方の目から見ると、AFVの主流となっている1/35スケールというのは「ハンパスケール」であり、近年各社より発売されている1/35のヘリコプターのキットなどはディオラマの添え物的な意味しかなく、大型航空機プラモの標準スケールは昔から1/32なのだから、ハンパな1/35ではなく1/32で出すべきだ……ということになる。

  また他の方からは、これからは逆に1/35でどんどん航空機を出して欲しい、という意見も出されていた。
  田宮の発売する1/48のキューベルは、まずは1/48航空機モデルとの組み合わせの楽しみ方を前提としているのだろうが、そのようにAFV系のキットが航空機に歩み寄るのではなく、逆に大型の航空機モデルがAFVに歩み寄って1/35で出てもらったほうがよい、という考え方だ。
  その根底には、それなりの年齢に達したモデラーにとって、視力の弱まりもあって小型のスケールは作りづらく、大きいスケールの航空機を作ったほうがラクなのだという現実的な問題があり、それならばいっそのこと、各種車両やストラクチャーが充実している1/35で改めて航空機を出してもらったほうが一層楽しめる……という意見だ。



  きれいごと……と言われるかも知れないが、元々「ナンデモ屋」で、気に入ったものならばジャンルを問わず何でも作ってはしゃいでしまう私からしてみると、ジャンルによってスケールが違い、その結果として「航空機の添え物としての車両」「ディオラマの添え物としての航空機」という考え方が生まれてくる状況に全然馴染めない。
  航空機もAFVも、ナンデモカンデモ“主役”として扱ってあげたいと思う。
  だから「何かの添え物」という感覚が理解出来ないのだ。

「添え物」って、いったい何だろう? と改めて考え込んでしまう。



  参考までに、ジャンルの違いによる現代の標準的スケールをあげてみると……

●航空機   1/144・1/72・1/48・1/32 他.
●軍用車両  1/76・1/72・1/35 他.
●自動車   1/43・1/24・1/12 他.
●艦船    1/700・1/500・1/350・1/200 他. 

  ……といった感じだろうか。
  それぞれのジャンルが、他のジャンルのものとスケール的にほとんどリンクしていない。
  艦船に関してはもともと実物が大変に巨大なものなので、様々なスケールが存在することとなっているが(お城などの建築物にも同じことが言えるだろう)他のジャンルではいつの間にかそれ相応の「主流」と呼ばれるスケールに寄り固まっている雰囲気がある。

  プラモデルの歴史をひもとけば、なぜそのような縮尺が一般化したかの理由はある程度わかってくる。
  実物の航空機等の図面がフィート・インチで描かれていたので、それを元に模型を設計する場合は 1/72・1/48・1/32といったサイズが適当だったとか、戦車をモーターライズ走行キットとして模型化する場合、電池やモーターの内蔵スペースを検討すると1/35というサイズが手頃であった、とか……。それなりの理由があることがおぼろげながら解ってくることもある。



  ―― しかし、お叱りを受けるのを承知の上で、前々から感じている私自身の「本音」を書かせていただくと……。

  現在定着している1/76・1/72・1/48・1/32・1/35・1/24……こういったスケールは、ジャンルに関わらず、全て「ハンパスケール」なのだと私は思っている。

  やはり客観的に、また、この趣味特有の世界に引きこもらず広い視野から見てみると、これらの数値はえらく中途半端である。

  この「プラモデルのスケール(縮尺)」の問題に関しては、何年も前にこのエッセイ&コラムコーナーで『盲点』というタイトルで拙文を書かせていただいているので、興味のある方はそちらのほうも参考までにご笑覧いただければ、と思う。


  ……フィートやインチが生活に密着している国の人々からすれば、1/72・1/48・1/32といった数値はさほど中途半端ではないが、日本は単純な十進法だから、ハンパに感じるだけだというご意見もあろうかと思うが……いやぁ、それはどうだろう?

  地図を買ってみたら「縮尺:1/25032」なんて表記してあったら……いかがなものか、と。

  科学ドキュメント番組等で「これは先だって発見された新種の大型ほ乳類、アカムラサキオオアリクイ(架空ですヨ^^;)の1/14縮尺の精密な模型です。どうです、大きいでしょう?」と説明されて、その大きさが実感としてすぐに理解出来る視聴者がどれだけいるだろうか?

  やはり、「1/25000の地図」がわかりやすいだろうし、1/10とか1/20縮尺の大型ほ乳類の模型のほうが、その大きさが伝わりやすくはないだろうか?

  縮尺の数値によって「本物の大きさがある程度容易に、感覚的に想像出来る」というのは模型・ミニチュアールの大きな意義であるように思う。

  また、航空機や自動車など、ジャンルの違うものが同じ縮尺でその大きさを手軽に比較出来るというのも、模型・ミニチュアールのなにものにも代え難い魅力だと思うのだ。


  それを考えた場合、本来ならばある程度手頃な大きさで作り応えもあり、その縮尺からホンモノの大きさが想像しやすい簡易な数値……例えば1/40や1/50統一スケールで自動車・AFV・航空機・一部の艦船・建築物・鉄道など、あらるジャンルのアイテムが一堂にコレクションできれば本当に楽しかったのではないか? と思う。

  そのような、ジャンルの枠を取り払った「模型趣味の根底を支える統一規格」としての「誰にでも解りやすい縮尺の、ジャンルを問わない統一スケール」というものが存在したうえで、個人の好みによってもっと大きなものが作りたいとか、小さいサイズのもので数多く集めたいとか……または基本的には統一スケールというものにこだわらず、好きなものを好きな大きさで何でも作りたい……といった志向に合わせて好みの大きさを選べるように他のスケールがいろいろと賑やかに発売されているというほうが健康的ではなかったか?と思う。

  しかし現実にはそうはならず、長いプラモデルの歴史の中でこの趣味特有の縮尺が確立されている。

  その結果、普段は模型をやらない知人から……

「なんでこんな中途半端な縮尺なの? 計算とかややこしくない?」

  ……などと言われ、確かに計算がヤヤコシイと思うことがあるが仕方がないことだと答えて苦笑されることもある。

「飛行機と戦車で縮尺が違うのは気にならないの?」

  ……などと問われたときに、

「たいてい戦車の好きなヒトは戦車だけ、飛行機の好きなヒトは飛行機だけしか作らないからあまり気にならない」

  ……と答えると、

「けっこう狭い世界なんだねぇ、そういうナワバリ意識があるんだ」

  ……などとまたまた苦笑されて、まったく返す言葉がなく困るのも事実だ。

  それでも普段、模型を楽しんでいて、この縮尺に何の疑問も持たない自分も確かにいる。


  どうやら我々プラモデルファンは、この1/48とか1/32などといった、一般的に見ると非常に不思議な数値に「飼い慣らされて」しまったのではないか、と常々思う。

  私が先に、
「1/76・1/72・1/48・1/32・1/35・1/24……こういったスケールは、ジャンルに関わらず、全てハンパスケールなのだと思っている」
  ……と書いた理由がお解りいただけただろうか。


  市販のプラモデルに頼ることなく、すべて完全自作オールスクラッチで、戦車でもクルマでもフネでも全部自分好みの統一スケールで作ってしまい「自分的模型ワールド」を好きに展開出来る……というのが、クラフトマンシップ溢れる模型趣味の最高峰なのかも知れない。いつかそういう人間になりたいなぁとも思う。

  とはいえ、さすがにそれを実現させるための切磋琢磨は想像を絶するものであろうし、気軽な「楽しみごと」としての模型趣味の範疇に収まらなくなってしまう可能性もあり、やはりプラモデルで楽しみたい……と思うが、かと言って今さら「では新規に1/40スケールで大規模なスケールモデルシリーズの展開を各社共同で……」というのは、まず完全に無理なお話である。
  先に書いた各ジャンル特有の各種スケールは、様々な進化、そして淘汰を重ねた上で、この趣味の世界にあっては極めて洗練された形態として定着して数十年が経過しているので、それを覆すわけにはいくまい。

  それならば、今ドッシリと地盤を固めたこの各種スケールの存在の中で、いかに各ジャンルをリンクさせて楽しみ方を広げていくかという方向性で突っ走るほかない。

  つまり、今までは1/48は航空機、1/35はAFV……と「棲み分け」が出来上がってしまっていた何とも不思議な「きまりごと」を廃して、1/48だろうが1/35だろうが、どのようなスケールレンジであっても、航空機、AFV、自動車系、一部の船舶など、さまざまなジャンルのものが楽しめるようになると最高ではないか、と思うのだ。

  だから時々、鉄道模型に長く親しんでいる方々を羨ましく思うこともある。
  彼らはHO(1:87)またはNゲージ(1:150)という、私からすると多少馴染みの薄い小スケールではあるけれど、メインのアイテムとなる鉄道と、それをとりまく環境……街や村、港と、そこで動き回る各種の車両まで、統一スケールで揃えて存分に「模型的世界」を展開出来る趣味的世界の住人でもある。
  これと同じことが他のスケールでも手軽に楽しめたら、どんなに楽しいだろうか思う。

  いささか理想論的な、とても実現しないようなことを書き連ねてしまったが、趣味の世界で理想が現実になることほど痛快で嬉しく、そして楽しいことはない。
  だからこそ照れることなく長々と書いてしまった。

  そんなこともあって、航空機プラモの主要なスケールとAFVをリンクさせて今までにない広がりを持つ楽しさを与えてくれるきっかけとなりそうな田宮1/48MVシリーズには大いに期待したいと思っている。
  模型の設計・開発技術が高度に進化した今だからこそ出来る新世代型のホビーワールドとしての展開を、ぜひ実践してほしいと思う。

  そのためには、先に触れたように航空機プラモの「添え物」といったイメージ展開を払拭して、1/48MVシリーズ単体でも立派な車両模型コレクションとして確立出来るような展開を目指してほしい。

  何かが、他の何かの“添え物”ではなく、どれもが主役として楽しめる豊かな内容を持って突き進んで欲しいと思う。

心から応援したい。


(文責:宮本 拓 200309)