
知人が、ウサギを飼い始めた。
どうにもこうにも可愛くて仕方がないらしく、まるで実の息子(娘?)を育てているような様子である。
―― そんな話に感化されたのか、動物について何か書いてみたくなった。

この写真は、宮崎県延岡市の実家の裏に出現したタヌキである。
今から10年近く前になると思う。
私の生活していた都内のアパートに友人が尋ねてきて、酒を酌み交わしつつヨタ話をしていると、急に友人が、
「オマエ、宮崎の出身だったよなぁ。田舎だろう、何もないだろう?」
と、蔑んだような顔で言った。
私は激昂して、
「ナニを言うか! 宮崎には最近シーガイアなどというすごいものまで出来て、発展が続いているのだ」
……などと力説したのだが、実にタイミングの良いことに、その場に速達郵便が届いた。
親父からの封書で「写真在中」と書いてある。
たぶん親父が学会などで県内を旅行したときの写真なのだろうと思い、傍の友人に、
「今、親父の送ってきた写真を見せてやる。いいか、宮崎がどんなに発展しているかがひとめでわかるゾ!」
……と、開封して見てみたら、この写真が入っていた。
『拓よ元気か。うちの裏にタヌキが出たので写真を送る。ではバイバイ。』
親愛なる親父様……バイバイ、まる、じゃなかろう。
友人は、阿呆のように笑い続けた。
私はあまりの屈辱感に顔をゆがめた。
……実家の裏には、堤防の上に単線の鉄道が走っており、そのまわりは草むらになっているのだが、何気なく庭に出た母が茂みの中に「ナニカいる」と言い出したらしい。
タヌキがこっちを見ている、と言う。
「あなた、あなた! タヌキよっ」
親父は、うちがいくらイナカでもタヌキはなかろう、そりゃ犬だ、と言いつつ外に出て庭を見ると、確かにタヌキのような動物が自分たちのほうを物欲しそうに見ていた。
しかし実物のタヌキというのは、漫画に出てくるようなポンポコリンではなく、どっちかと言えばそこらの野良犬がちょいとメイクしてガングロになっちゃいました、みたいな貧相なもので、しばらくはそれがタヌキだとはわからなかったと言う。
両親はとりあえず彼に名前を付けて可愛がることにした。
“タヌちゃん”である。
……まんまやんけ。
それではつまらぬので、私は個人的に彼を「佐藤ふみやす君」と呼ぶことにした。
特に意味はない。
―― かなり昔、仕事で千葉方面に行った際、撮影の合間に随分と待ち時間があったので、気分転換にとキャメラマンと連れだって近所にあった動物園に入ったことがあった。
園内をブラブラ歩いていたら、コンクリートの仕切の中に入った飼育係のお姉さんが、
「みなさーん、アライグマくんたちですよ〜♪」
と、軽やかな声で歌うように呼びかけてきた。
お、アライグマは間近で見たことはないナ、ひとつ見物してみるかということになった。
きっと「あらいぐまラスカル」のように愛らしいものだろう……と思ってしばらくながめていると、奥のケージの中から得体の知れぬ異様な生物がゾロゾロと出てきた。
ぷっくぷくのコロコロに膨らんだ茶褐色で四つ足の動物が大挙出現したのである。
コレは、タヌキではないのか!?
「お姉さんお姉さん、こりゃ何ですか!?」
「はーい、アライグマくんですよ〜♪」
「バカ言っちゃぁいけない。こりゃタヌキだ」
「いいえ、アライグマなんですっ」
「だっておまえ、こりゃどー見たって“ぶんぶくちゃがま”じゃねぇか。アライグマってのは、もっと、こう……」
「初めてご覧になったんですか〜? これがアライグマなんですよ〜だ♪」
「ううむ、断じて信じられん!」
―― どうも、昔の童話や漫画の「スリコミ」があるので、動物に関して間違ったイメージを持っていることが多いらしい。
サテさて、我が家の裏庭の訪問者であるタヌちゃんこと佐藤ふみやす君は、あっという間に家族が増えて……こんなんなっちゃった。

ふみやす君はメデタクも嫁さんをもらったらしく、しばらくは夫婦二匹で顔を出していたが、そのうち子宝にも恵まれ(やや、恵まれすぎた感もあるが)家族一丸となって裏庭に登場するようになった。
母はスーパーで唐揚げを買ってきてふみやす君一家に投げ与えていたが、親父はどうもそれが気にくわない。
「オレの晩飯のおかずが魚の干物で、タヌキは唐揚げなのかっ」
一度、家庭内につくられた「きまりごと」というものは、そう簡単に覆せない。
親父は干物、タヌキは唐揚げの夕飯が続いた。
タヌキの「視力」がどんなものか、私は知らないが、帰省した際に私もタヌキに唐揚げを投げ与えてみて、彼らの目はあまりよくないのではないか? と感じた。
私の投げた唐揚げがすぐ近くに落下しても、しばらくキョトキョトと探している。
場合によっては狙いが良すぎて投げた唐揚げがアタマにゴンと当たっても、しばらく首を傾げて考えているだけである。
餌をやっているこっちのほうが、何だか情けなくなってくる。
この佐藤ふみやす君一家、数年前に堤防沿いの草むらがきれいに刈り取られ整備されてからはトンと姿を見せなくなり、しばらくは何となく淋しく感じられたものだ。
……案外、子供の頃から動物には縁があった。
昔は犬もいて幼少の姉が可愛がっていたようだし、リスを飼っていたこともあった。
クワガタ、カブトムシなどの昆虫は毎年夏には必ず友達になったもらったし、祭の夜店で買ってきた金魚が3年近くの長寿をまっとうしたこともあった。
いちばん馴染んだのはセキセイインコで、小学4年の頃に我が家にやってきたオパーリンブルーの“ルル”をはじめとして“チロ”や“ピピ”など、高校の頃までに様々なインコが我が家で暮らしていた。

コレは最近我が家で奇跡的に発見された“ルル”の写真である。
ブーブーうなる掃除機を追いかけ回し、その上に留まって休むのが好きだった。
鳥が苦手だという方も多いようだが、なつくと可愛い。
何というのか、小さいのでカサバラナイし、ほどよく利口で、ほどよくアホなところが憎めない。
母は、家の軒下にスズメが巣をつくっているのを発見して、雛の鳴き声が聞こえ始めた頃、大胆にもハシゴをかけてヨジ登り、一羽の雛を誘拐して育て始めた。
インコに加えて、スズメまで我が家の一員となったわけだ。
名前も“すず”と付けた。
……まんまやんけ。
これがまた、驚くほどなついた。
先住者のインコとは、ほどほどにうまくやっていたようだ。
家の中でほとんど放し飼いだったが、食事中には食器棚の上から我々家族の食卓を見物していて、食べ終わった頃に舞い降りてくるとご飯ツブをせがんだ。
家の居間と医院の診察室をつないでいる廊下に、仕事を終えた親父が姿を現すと、パッと飛び立って「お迎え」に出ていた。
ただ、スズメというのは案外不器用なようで、冷蔵庫や戸棚によく衝突、墜落してかなり落ち込んでいたようだ。
冬場は居間に置かれた石油ストーブの真ん前に鎮座(?)して、呆けたようにポケ〜ッとくちばしを開けていたのが印象深かった。
野生のスズメが屋根瓦の隙間に潜り込むのと同じ習性なのか、上着の襟元から首筋のほうにすぐ潜ってきてくすぐったかった。
よくよく顔を観察すると、確かに、漫画に描かれるスズメのように頬が黒かったし、つぶらな瞳にはまつ毛もあった。
……スズメのまつ毛を見たことのある人は多くはいまい。ちょっと、自慢♪
こんなこともあってスズメが好きになり、スズメの焼き鳥なぞ一度も口にしたことがない。
可哀相で食べられない。
また、いわゆる“コギャル”系の女子高生を見ると、私は収穫期のスズメに見えてしまう妙な悪癖がある。
実家の周囲は田畑で、秋の収穫期になると農家の方の“おこぼれ”の米をたらふくついばんだスズメの体格が実に良くなる。
もう見るからにコロッコロに太ってしまい、オマエそれでホントに飛べるんかと思うほど丸くなるのである。
胴体が肥えるに従い、相対的に翼が小さく見えてくるのがまたコッケイである。
みんな同じように茶色っぽく、同じように丸っこく、ピーチクパーチク騒がしく、電線に並んでとまっているスズメの群は、最近の女子高生……妙にプニプニした丸っこい体格で、みんな茶髪ガングロ、似たようなセーラー服にルーズソックスという没個性的な女子高生の群が電車の席に並んで座ってピーチクパーチクやっている情景と、驚くほど酷似している。
……こんなこと考えるのは、イナカモンの俺だけかな。
鳥と言えば、ほんの短い期間、啄木鳥がいたこともある。私が小学生の頃である。
啄木鳥は「キツツキ」と読む。

実家よりもずっと山の奥に入ったあたりに住む農家のオジサンが、何かの網にかかったか、落ちていたかでキツツキを拾って、ナゼかうちに届けたのである。
実際に見てみると、小柄で素朴な鳥だった。
さすがに人になつこうとはせず、壁際に置かれた大きなケージの中で不安そうに動き回っていた。
はよくは知らぬが、キツツキは「保護鳥」なのだという。
飼ってはいけない鳥である。
もとより、キツツキの飼い方なぞ、家族の誰も知らない。
少し元気が出たら、すぐ野山に放してやろうということにしていた。
―― そして彼は数日後、元気になったのである。
ある日の早朝、5時過ぎであろうか、私達一家は、けたたましい衝撃音に眠りを破られた。
ぐらたたたたたたたたたっかかかかかかかかかっここここっかこかこかこっかかかこここっこここっカカカカカカコココココココココココココココココッ!……かかこっ!
体力の回復した彼は、本能にしたがい、ケージからくちばしを突きだして、すぐそこにある我が家の壁のあっちこちにメッタヤタラと削孔工事を開始したのである。
皆、飛び起きた。
ほんの数日で我が家の壁の一部は小口径機関銃弾を乱射されたかのようになった。
親父は、言い知れぬ危機感を覚えた。
このままでは、我が家が穴だらけとなり、やがて崩壊してしまうに違いない。
彼は、うちからクルマで30分ほど山の中へ入ったあたりに強制送還された。
犬や猫も好きだ。
現在の住処のマンションでは何も飼えないのが残念だ。
学生の頃生活していた映像学院の寮には、数匹の猫が住み着いていた。
個性的なヤツラばかりで楽しく、いろいろな名前ももらっていた。
白黒で牛のような模様なので“うっしー”など。
……まんまやんけ。
彼らはなかなか良い遊び相手だったりする。
魚の煮干しなどを与えると、美味そうにうにゃうにゃと食べ、満腹になったらしくウツラウツラしはじめる。
背中に小石を置いても起きない。そのうち小石をどんどん増やしていくと、↓のような状態になりつつ、まだ寝ている。

猫のクビだけか? とギョッとした方もおられようが、そうではなくて、小石に埋もれて居眠りする満腹した猫の写真である。彼は、幸せなのである。
人間も「砂風呂」に入ってくつろいだりするが、日光で暖まった石の感触が心地よかったのかも知れない。しばらくこのまま寝ていた。
小石が冷えた頃、彼は目覚めて『モスラ対ゴジラ』の干拓地の地底から出現したゴジラのように体を震わせ、ホコリを落としてみせたが、なんせこのノンキなご面相の小柄な猫なので、円谷さんが撮られたゴジラほどの迫力がなかったのは言うまでもない。
……こんな写真を撮っているのだから、学生ちゅうのもヒマなもんである。
15年以上ソレを保存している私もどーかとは思うが、こうしてエッセイのネタになったんだから、とりあえずヨシとしよう。
この学校の後輩たちにも案外動物好きが多かったが、ある日、関西出身の親分肌のヤツが、どこから仕入れてきたのか、蠍を学生寮に持ち帰ったときには閉口した。
蠍……「サソリ」である。
買ってきた張本人は、ウソかホントか知らないが、まともに輸入されたものではないからコイツの毒針は健在なのだ、といったことを自慢げにうそぶく。
それが事実かどうかは知らぬが、砂の敷き詰められた小さな水槽の中で蠢いているサソリをマジマジと見てみるとヤケに攻撃的で、昔の特撮映画に出てきたストップモーション・アニメのモンスターとほとんど同じような動きをするのがまたイヤラシク、こんなのに刺されたらたまったもんじゃないと思ってしまった。
「頼むぞオイ、こんなの逃げ出したら大騒ぎなんだから、ちゃんと管理しろヨ」
……私はそう言い残して寮から帰ったのだが、翌朝になってまた寮に顔を出してみると、サソリの飼い主とそのルームメイトたちが何だか知らないがドタバタやっている。
そのうち、こんな声が聞こえてきた。
「まだ、そのへんにおるはずやでーっ!」
―― 絶句。
あ〜やっちゃったよ。どっか行っちゃったよサソリ君が。
まったく、怖い者知らずの学生のやることは始末に負えない。
七転八倒、総出で探し回ったが、結局サソリを見つけたのは寮に住み着いていたネコであった。
彼女は(つまりその猫は)サソリにチョッカイ出したあげくに鼻っツラをハサミでぎゅっとやられて逆ギレしたのか、さんざん猫パンチを喰らってひっくり返ったサソリの横に、憮然として座り込んでいた。
かなり不機嫌そうだったが体調に異常は無いらしく、サソリの針に毒はなかったのだろう。サソリの飼い主の落胆ぶりはちょっとした見物だったが、とりあえず猫が死なずにすんでよかった、と思った。
しかし、このサソリの飼い主、転んでもタダでは起きない。
愛するペットの亡骸だけでも保存しておこうと考えたのか、専門店で不飽和ポリエステルとかなんとかいうのを買ってきた。
いわゆる、透明レジンである。
ホラ、よく土産物屋さんに透明樹脂の中に花とかが埋め込まれた置物があるでしょ?
サソリであれを作ろうとしたわけ。
サソリの死骸の周囲に箱形の壁を作り、その中に混合した樹脂を流し込んだ。
しかし、生まれて初めてレジンなどというものをいじったわけで、液体の混合比も何もかにもテキトーである。基本的には、ズボラな男であった。
ぶじゅるしゅるしゅるるるるるぅううう〜っ、ぶっくぶくぅううぅっ。
箱からは湯気がたち、大量の気泡が発生し、サソリは赤茶けた色に変化して樹脂の中で気味悪く茹で上がり、大失敗に終わった。
……バカだなぁ、ホントにもぉぅ。
このときの飼い主の落胆ぶりもまたもやけっこうな見物であった。
死んだ後まで不器用にイタズラされるサソリもたまったもんじゃあない。
―― あれ以来、なかなか動物とのふれあいがない。
それにしても、このエッセイ。
何というまとまりのなさであろうか。思い出したことを順に書き並べただけなので、脈絡が無いにもホドがある。アサハカな長文である。
私の文才は所詮この程度。とりあえずお許しを。
―― 最後に「なごみの写真」をば……。
お友達の女優さんから、新宿都庁舎近くの池で見かけたという可愛らしい親子の画像をたくさん送っていただいた。
私が動物に関する拙文を書いている最中だ、などとはまったくご存じなかったはずで、なんという偶然だろう。何だか嬉しかったので許可をいただいて掲載した。


ハテ、これはいわゆる有名な「カルガモ」なのだろうか?
それとも普通の「鴨」なのだろうか?
だいたい、普通のカモとカルガモと、どう違うのダローカ?
ネギはしょってないようだが……。
(文責:宮本 拓 200206)