"進歩"



  ―― どうも、イカン。
  ここしばらく……数ヶ月、マトモに模型趣味に親しんでいない。
仕事が重なって自分の時間が持てないというのがいちばんの原因なのだが、こういうスタンスの仕事だからプライベートな時間が無いほど仕事に没入できるというのは良いことである反面、やはりポチポチとストレスもたまり、“趣味は生活の潤滑剤”という言葉が頭の中をよぎったりする。

  そんなこんなでこちらのサイトの更新もかなり滞ってしまった。
ネタはあるし、いろいろと新規コンテンツも準備中なので、今しばらくお待ちいただければ、と思う。

  とりあえずは、書き貯めておいた駄文を小出しに掲載してみようかと(^^;)

  いつも通り、何の脈絡もない幼稚な文章の羅列に過ぎないが、模型趣味の「休憩時間」ということでご笑覧いただければ、と思う。





  しばらく前のことだ。
  ひょんなことから、とある女子高生たちの奇妙な会話を耳にした。

  彼女たちは、しきりと携帯電話をかけて、通話の相手がまるでその場にいるかのような、とてつもなくフレンドリーな会話をはずませている。

  しばらく話に夢中になっていたようだが、どうも受信状態が悪いらしく、

「もしもし、もしも〜し!」

  と声を張り上げたと思ったら、オモムロに携帯電話の伸びたアンテナを側頭部に押し当て、まるでクシを使うようにして髪の毛でこすり始めた。
  どうやら、その動作によって電波の状態が良くなると信じているらしい。
  おかしな動作が流行ったものである。


「何してるの? そんなことしても電波の状態は変わらないんじゃない?」

「えっ、でもみんな、こうするとよく聞こえるようになるって言ってるよ」

「う〜ん、しかし、電話ってそういう構造になってないからなぁ」

「そんなのわかんないじゃん。ホラ、せーでんきとかのエイキョーで聞こえ始めるのかも知れないし、人間も、何か……電流が流れてるって言うじゃん!」

「そんなもんかな……(苦笑)」

「そーだよ。だって、こんな小さい電話ですっごい遠くのヒトと話が出来るんだよ。もしかしたら、作った人も知らない不思議な力があるかも知れないじゃ〜ん」

「そーだよそーだよ、わかんないこといっぱいあるじゃん。ネッシーとかUFOとか……」



  ―― 私は先頃、日本に携帯電話を普及させた実績を持つ某電話電信会社の誇る、巨大な総合研究所を訪れ、そこで開発されている最新技術を紹介するためのPR映画の監督を務めた。研究所内で働く人々のほとんどは博士号を持つ、いわゆる“ドクター”であり、20代の若手も含めて数多くのドクターが地道な研究を日夜つづけていた。

  彼女たちの会話を聞きながら、恐らくあのドクターたちは、自分たちの開発した携帯電話が女子高生たちにネッシーやUFOと同列に扱われているとは夢にも思わないだろう……などと考えていたら、我々撮影チームに対して、緊張しつつ最新機器の説明をしてくれた若いドクターの、はにかんだ笑顔が頭に浮かび、思わず吹き出しそうになってしまった。


  技術の進歩は、私のようなモロ文系人間にはまったく信じられない世界にまで到達している。昔は考えられなかったような、夢のような品物が続々と実用化されている。

  田宮模型が発売した、10万円近くする巨大なRC(ラジコン)戦車もそのひとつだった。

  大きなラジコンの戦車……と言えば、昔はヤケに大柄なわりには細部の工作が単純で大味な形態をしており、そのわりには高価で、とても手軽に楽しめるものではなかった。
  かと思えば、トイ(玩具)として発売されているRC戦車は、透き通ったブルーやオレンジの部品があちこちにやたらと出っ張っているオモチャオモチャしたものばかりで、ゴム製のキャタピラでトコトコ走ってチリチリと火花を飛ばすようなシロモノばかり、といった印象があった。

  ところが田宮が満を持して発売したRCのタイガー戦車やシャーマン戦車は、実車のイメージをあますところなく捉え、細部まで忠実に再現された精密モデルであり、そのRC戦車としての動きも、前・後進、方向転換は勿論のこと砲塔も旋回し、主砲の砲撃や機銃掃射まで再現するうえ、ライト類もすべて点灯する。

  しかも驚いたことに音声回路が搭載されていて、砲撃すればズドン! と、いかにも発砲したような実感ある音が響き、それに加えて砲撃と同時に車体が小刻みにブルッと震えて、いかにも車体が砲撃の衝撃を受け止めているかのような挙動を見せる機構も付いている。

  もちろん、走らせると実車と同じエンジン音が響く。モーターで走っているのに、大型のガソリンエンジン特有の音がして、速度を上げたりするのに追従してエンジン音も変化するという念の入れようで、最新のモデルでは、走行すると「キュラキュラキュラ……」と、実車の持つ重々しい金属製キャタピラの響かせる音までが再現されているという。



  ……この豪華なモデルを見て、私は心底感嘆するとともに、ユーザーやファンの方々には誠に申し訳ないが、思わず爆笑してしまいそうになってしまった。


  これは、まさしく「子供の夢」の具現化であり、オトナになった自分がそれを目の前にドンと置かれて、アッケにとられ、そして驚愕した……ということ自体が、ひどく可笑しかったのである。あんなに愉快、痛快なものを見たのは久しぶりである。


  このRC戦車は、自分が子供の頃に、自分ひとりで幼い妄想にふけりながら遊んでいた、その「仕草」そのものをフルオートで再現してくれる不思議な機械なのである。


  子供の頃、小さな戦車のプラモデルを作って、ひとり悦に入っている私がいた。

  出来上がった戦車を床に敷かれたカーペットの上に置き、寝そべって視点を極限まで下げながら見つめると、接着剤もはみ出して部品も歪んでくっつき、塗装もグチャグチャのオソマツな戦車が、いつのまにか本物に見えてくる。
  カーペットはヨーロッパの草原や北アフリカの砂漠に見えはじめ、後ろに置かれたソファの背は、切りたった崖に見え、硝煙漂う勇壮な戦場が眼前に現出し、今にもその戦車が走り出しそうな幻想に見舞われた。

  子供の私は、そのちっぽけな戦車にそっと手を伸ばして掴み、ゆっくりと前に押す。

  そのうち自然と、

「ぶるるるるるぐぉおおおおおキュラキュラキュラ……」

  と、エンジン音やキャタピラの走行音の“擬音”が口から漏れる。

  砲塔をつまんで回せば、

「うぃいいいいん」

  と口で音を発し、狙いを定めるや否や、

「ばひゅぉおお〜ん!」

  ……と、戦争映画の効果音の口マネをして、戦車を掴んだ手にやや力を込めて後ろに引き下げ、砲撃の衝撃で車体が傾いだ様子を(手動で)再現した。

  小学生の頃は、そんな空想の世界で思いっきり遊んでいた。


  ―― このRC戦車は、そんな子供の一挙手一投足をすべてシュミレイトしてくれている。もはや、ツバを飛ばしながら口をゆがめてエンジン音や砲撃音を自分で再現する必要はなく、バッテリーが切れてなくなるまで、オートで動く夢の世界で遊べるのだ。
  しかもそれが、10万円する高価な、オトナしか買えない玩具……。
  それが、可笑しくて可笑しくて、仕方がなかった。


  恐らくこの商品を開発した人々は、リアルに動く世界トップレベルの戦車の模型を作りたかったのではなく、もっと単純に、子供の頃の「きゅらきゅらばきゅーん遊び」を自分でやってくれる戦車のモデルが作りたかったのではないだろうか。いや、そうに違いない。

  そして彼らは、そんな遊びの出来る素敵なモデルが発表されたなら、きっと10万円出しても買いたくなる、自分たちと同じような「大きな子供たち」が大勢いることを……そんなモデルが発売されることを何十年も夢見ていた「大きな子供たち」が大勢いることを、心底ワカッテいたのだ。
  本当にリアルな、本物と見まごうばかりのRC戦車を開発したかったのならば、もっと大きな縮尺で再現したのではないだろうか……やはりこれは、彼ら自身が「きゅらきゅらばきゅーん遊び」をやりたかったからに違いない! と私は確信している。



「アンタ、そりゃ違うヨ。田宮の最高の技術を使って、今後の模型の進歩の、ひとつの可能性として……云々」


  ……という真っ当なご意見が聞こえてきそうだ。
  実際、それが正しいと思う。


  でも私は、精緻な図面や高度なコンピュータや、精密な木型や金型とにらめっこしながら、究極の「きゅらきゅらばきゅーん遊び」の出来る道具の開発を目指して昼夜分かたず汗を流す技術者の人々の姿を想像し続けていたい。

  なぜならば、そのほうが断然に楽しいからだ。

  いつの時代にあっても、売る側と買う側、双方ともに“楽しい”のが模型という品物であってほしい。

  模型メーカーには、いつの時代でも、子供っぽいイタズラ好きのエンターティナーであってほしい。


(文責:宮本 拓 200206)