"食玩"



  近年になって、初めて「食玩」という言葉を聞いた。
  何のことかと思っていたら、いわゆるお菓子の「オマケ」のことだった。
  略称だろうが、本式の呼び名は知らない。
  “食品添付用玩具”なのだろうか?

  “食玩”の歴史は古い。
  もっとも有名なのは“一粒3百メートル”のグリコのオマケ。
  ミニカー好きの子供だった私もグリコのオマケには目が無く、家人に買い物に連れて行ってもらうたびにねだっていたのを覚えている。

  最初の頃は薄いブリキをプレス加工して打ち出したオモチャだったが、やがて「セルロイド」と呼ばれる材質で出来た小さな自動車やヘリコプター、スクーターに変わっていき、子供心にも扱いやすくなったと感じた。
  買い集めたオマケは、ビスケットの入っていた丸いブリキ缶の中に、ダイヤブロックやトミカ、壊れたプラモデルの部品などと一緒に詰め込んで、何処に行くにも抱えて持って行った。


  ―― あれから30余年。
  いやはや、食玩も進歩したものである。
  社会現象にまでなった「チョコエッグ」をはじめ、テレビや映画のキャラクターを精巧に再現した人形……フィギュアや、古代遺跡、恐竜、目撃された宇宙人などなど、考えつく限りのアイデアが凝縮された愛すべき数々の品がコンビニの棚に溢れている。
  その多くは造型関連製品の“老舗”海洋堂の手による原型を商品化しているらしく、価格に似合わぬハイクォリティーで驚かされる。

  ちょっとマニアックすぎるのではないか……? と思えるようなアイテムも多いが、老若男女問わずけっこう人気があるようで、仕事で訪れた一般企業のオフィスをのぞくと、男女かかわりなく、社員のデスクの上、パソコンのモニターの上などに小さい人形や動物が並んでいたりするのをよく見かける。
  可愛らしさ、ノスタルジーをかきたてられるアイテム選定などが人気の秘訣だろう。



  私はそれらの食玩を横目で見つつも、手を出すことはしなかった。
  逆に、極力避けるようにしていた。
  自分の性格からして、こういったものに「ハマって」しまっては、もう収拾がつかなくなり、次々と出されるニューアイテムを永遠に買い続けるような事態に立ち至るのは明白だと思ったからだ。
  模型やミニカーを買い集めて喜んでいるわけだから、これ以上他種のコレクションアイテムを増やすわけにはいかないと、自粛したのである。

  ところが2002年になって、
  「こっこりゃ、ガマンできん!」
  といった事態が発生した。

  「タイムスリップグリコ」の登場である。

  いや〜買いも買ったり!
  掃除機やアイロンなどの家電、トヨペットクラウンやオート3輪、スーパーカブなどの乗り物、鉄人28号のヴィネットなど……1950年代後半〜60年代の風物をリアルに再現したノスタルジックな魅力と可愛らしさに溢れた品々で、ヒトリモンの侘びしさ、仕事からの帰路にはかならずコンビニに寄る習性が身に付いていることもあって、毎日のように複数購入。グリコキャラメルのほうもその懐かしい風味を堪能しつつ、仕事でパソコンと向き合っている間中、口に含んでいた。

  その昔「仮面ライダー」のスナック菓子が流行したとき、ライダーのカード欲しさに買った子供たちが菓子のほうは食べすに捨ててしまうというのが社会問題になってしまったことがあった。
  私は当時からそんなモッタイナイことは出来ない子供だったので、今回の食玩のお菓子もマメに食べるか、余ったら知り合いの会社のリフレッシュルームに差し入れとして持っていくようにしている。食べ物を粗末に扱ってはイケナイ。



  その後になって、またもや驚愕のアイテムが登場した。
  模型専門誌が協力するシリーズとして、第二次大戦からの有名な戦車を1:144スケールで再現した「ワールドタンクミュージアム」シリーズである。

  当初は食玩の王様「チョコエッグ」を手がけていたフルタ製菓よりの発売が予定されていたが、原型担当の海洋堂との間にビジネス上の摩擦が生じたとかで、結果的に大手玩具メーカーのタカラから発売されることとなったようだ。

  2001年後半に、その原型を見る機会を得たが、まさに超絶の出来。いったいどうやったらこんなに細かい彫刻が「人力」で施せるのか? と不思議に思うほどだった。

  その後のイベント会場での先行販売品も入手したものの、2002年春になってコンビニの棚に並んでいるのを見て何だか楽しくなり、改めて購入し始めた。

  流石に超絶だった“原型”と比べると、大量生産品故の「甘さ」があちこちに見られ、完全にシャープな出来映えとは言い難いものの、オマケと考えれば(もっともこの製品の場合は完全に戦車のミニモデルが主役で、チョコがオマケの体裁となっているが^^;)これで充分という気がする。



  ただ、ひとつ大きな問題がある。
  「ワールドタンクミュージアム」は、拙宅から歩いて5分のセブンイレブンに大量入荷されているわけだが……この界隈には女子大や女子高が多い。そのためコンビニには若い女性客が多いのである。

  そんな中、いいトシこいた大人がタンク入りチョコを棚からゴソッとかっさらって両手に抱えてレジに持っていく(コレを“大人買い”というらしい。なんとも子供っぽいオトナの行為である^^;)というのも気が引けてしまい、毎日のようにコンビニに行っているクセして、商品の並ぶ棚をチラチラと横目で見つつも、

  「ほほぅ、今は戦車の模型入りのチョコもあるのか。これは珍しいなぁ。どれ、ひとつ試しに買ってみるとしよう、ふふふふ」

  ……みたいなワザトラシイ顔をして、やや控えめに数個づつ手に取り、他の品物と混ぜてレジに持っていくのを常としている。

  とはいえ、カモフラージュのつもりでたいして確かめもせず手に取った週刊誌の表紙に、やれ巨乳だのAVアイドルだの風俗最前線だの、すっげー恥ずかしいズビズバにシモネタの語句が並んでいたりして、かえって女性店員の前でフリーズしてしまったりすることもしばしばである。



  ―― さて、この「ワールドタンクミュージアム」、一般の方々はどのような楽しみ方をされているのだろうか?

  こういったアイテムは、購入するまで箱の中身がわからないので、集めている仲間同士でとりかえっこ……つまり「トレード」を楽しんだり、全ラインナップを揃えて……つまりコンプリートさせて机上やガラスケースに並べて楽しむ……というのが普通だと思うのだが、我々のような模型好きの人間の場合、大量生産品特有の甘さ、荒れた部分などをカッターナイフやヤスリ等の工具で修正したりパテを使って整形したうえで再塗装して、より精密に仕上げたりするだろうし、また元来1:144という縮尺は航空機のプラモデルではポピュラーな数値であり、鉄道模型のNゲージが1:150と近似値であることからも、小さいながらも精密なディオラマを作ったりして楽しむことが多いだろうと思う。

  しかし、たいていの方々は買ってきて並べるだけである。
  そうすると、チト困ったことも考えられる。

  最近ではプラモデルに代表される模型……つまり、自分の手を動かして作る楽しみを味わえる趣味というものが、どんどん元気がなくなっていき、作らなくてすむもの……完成品のコレクションに鞍替えする人々が増えているということを耳にしたことがある。
  特に欧米では、完成品コレクションが模型趣味の主流になりつつあるということも聞いた。

  コレにはちょっと困った。
  確かに食玩に代表される完成品モデルは、昔に比べると驚くほど安価なうえに品質も高く、買うほうが「このクォリティーのものがこんな値段でモトはとれるのだろうか?」といらぬ心配をしてしまうほどのものばかりなので、わざわざ自分で作らずに気軽に買ってコレクションしたほうが楽しいのかも知れない。

  しかし、「自分でつくる」という部分に根幹的な楽しみを見出せる模型趣味はまったく別種のものであり、「完成品コレクション趣味」に押されて模型趣味の衰退に拍車がかかってしまっては、ちょっと淋しい気がする。

  杞憂なのかも知れないが、どうしてもこんなことを考えてしまう自分がいる。



  昔ながらの「チョコエッグ」そして「ワールドタンクミュージアム」などのキャンディトイを買い集めている皆様にちょっとご提案……というよりも、カンタンなお願いを申し上げてみたい。

  どのアイテムも実によく出来ているが、模型店などで容易に入手できる道具や材料を使って自分なりに手を加えると、より素晴らしいものが出来るし、世界でひとつの、自分だけのコレクションが楽しめる、ということをちょっと試してみていただけないだろうか?

  例えばチョコエッグの動物たちには、部品の分割部分に必ずスジが入ってしまう。
  そういった部分に薄くパテを盛りつけて乾燥後に紙ヤスリで磨き、スジを消して一体化させてみる。その後、絵を描く要領で、プラカラーを使って塗装しなおす。塗り方のタッチなどはもともとのチョコエッグの彩色を参考にすればいい。特に高価なスプレーなどを使わなくとも、チマチマと塗ってやればそれなりにうまくいくはずだ。

  ―― そうして「工作の面白さ」に気づいたら、今度はチョコエッグやキャンディトイよりもちょっとサイズの大きい、各種プラモデルを手にしてみてほしい。

  食玩の整形に慣れてしまった指先ならば、現在のプラモデルは誰にでも気軽に、そして綺麗に仕上げられるはずだ。

  そうして、自分で作る模型の趣味に、ちょっぴり注目していただけると、ありがたい。


(文責:宮本 拓 200205)