"パッケージアート"



  2000年から2001年にかけては、拙作のオリジナル・ビデオムービーがらみなどでSF特撮専門誌に取材を受けることが多かった。

  その際、大抵いつも飛び出す質問は、

「絵作りのうえで影響を受けたものは何ですか?」

というものだった。
  私の作品がミニチュア特撮カットを多用したものが多いからだろう。
  その度にいろいろと考えつつ、日本の特撮のみならず、映画界全体に渡って大きな功績を残された円谷英二監督や、海外の特撮作品で活躍されていたデレク・メディングス、L.B.アボット各氏といった特撮スーパーバイザーの方々のお名前を挙げさせていただいた。

  そして同時にひとつだけ、特別に影響を受けたものとしていつも挙げるようにしていたのが、プラモデルの箱絵、いわゆるパッケージアートだった。

  プラモデルの箱絵には、重要な使命がある。
  本ならば、書店に入ってちょいと立ち読みすればそれがどんな内容のものかがすぐにわかる。食材であっても試食コーナーでひとつまみ口に入れて味を確かめることができる。
  ところがプラモデルというものは、作ってみないことにはその商品の潜在的な魅力はなかなか伝わらない。しかし作る前の状態のものを魅力的に見せて売らなければならないという、生産者側、販売店側から見れば誠に厄介な品物である。

  そこで効果を発揮するのが、箱絵である。
  その車両または航空機、艦船が、どんな時代のいかなる状況の中で、どのように運営され、活躍したのかを強烈にアピールするには、部品の詰められた箱の表面をキャンバスとして「戦争画」とも言えるインパクトの強い絵画を描くのがいちばんである。
  これは文庫本の表紙の絵などよりもよほど効果的である。

  戦車、飛行機、艦船……。
  メインの被写体は、箱の中に梱包されている部品を組み立てれば完成するプラモデルのモチーフとなったもの……つまり各種のメカニックである。
  その絵画の世界では、メカニックが主役となり、兵士や将校、パイロットなどの人物はそのメカの大きさを表現する比較対象物として、また時代設定やメカが活躍した環境、状況を説明するための「名脇役」として登場することになる。
  普通の絵画と異なり、人物ではなくメカが主役なのである。
  そうしておきながら、見る者のハートを掴むストーリーテリング的な要素も加味されていて、独特の世界観を現出させているのが、プラモデルのパッケージアートだった。
  一枚の「戦争画」としてじゅうぶん鑑賞に耐えるほどの、優れたものが多い。
  立体的に描かれた「メカが主役」の戦争画……箱絵は、私の大切なお手本だった。

  そんなパッケージアートに、昔から魅せられてきた。

  海外製品の箱絵にはユニークなものが多かった。
  マッチボックス社のものは、同社が豊富にラインナップしている幼年者向けのミニカーからの流れなのか、ややトイ感覚の色使い、描写のものが多かった。
  エアフィックス社、レベル社のものは、ときにはその商品そのもの……主役であるはずの爆撃機が敵機の攻撃を受けてエンジンから炎を吹きながら飛んでいるものなどまであって、なかなかにドラマティックだった。
  戦勝国である欧米諸国の戦争映画のドラマ構築方法論は「我々は恐るべき敵と果敢に戦った。そして多くの損害を出しつつも最後には勝利を手中に収めたのだ!」というものがほとんどだが、まさにそれを地でいくような迫力ある絵が多かった。

  1960年代以降、急速に成長して世界的に認められた日本のプラモデルも負けてはいない。画集が出るほど優れたパッケージアートが豊富に存在する。
  子供の頃、田宮模型やニチモの箱絵のかっこよさに惹かれてキットを買った経験は誰にでもあるだろう。

  そんな中、大胆な色使いと迫力ある構図、動感溢れるタッチでひときわ目を引く箱絵が、各模型メーカーのラインナップに必ず含まれていた。

  小松崎茂画伯の手によるパッケージアートである。

  何かしら不思議な味わいがあり、その絵の描かれた箱を手に取ると不思議な温かみとともに「今からこれを買って帰って、この絵のように仕上げるんだ」という希望を持たせてくれる絵だった。

  ――しかし、壮大な戦争絵巻といった風情のある箱絵は次第に姿を消していった。
  そのメカが置かれた環境をドラマティックに再現しようとすれば、街並みや山岳地帯といった遠景に加えて、戦う兵士たち、上空を飛び交う航空機といった多くの要素を描き込まねばならない。
  しかしあるとき、

「そのようなものはキットに含まれていない。中身だけを描くべきではないか」

  といった意見がどこからか出され、やがてプラモデルの箱絵は「ホワイトバック」と呼ばれる、真っ白い背景に車両のみが緻密に描かれたものへと変貌していった。

  本来、環境までも迫真の筆使いで描き出すところにその良さのあった小松崎画伯の絵もメカ単体のものが多くなり、やや寂しげで、真っ白い背景が目に痛かった。


  また昔のように、壮大なスケールで描かれた戦争画の一部を切り取ったような、素晴らしい箱絵を復活させていってほしい。プラモデルが、作る人口こそ減ってしまってはいるが、趣味として熟成して大勢に認められ始めた新世紀の今こそ、多くの人々の耳目を集めるような優れた箱絵が必要なのではないか……そんなことを考えていた矢先、小松崎画伯の訃報を聞いた。

  享年86歳。生涯現役を貫き通した異能の画家だった。


  私はこれからも「影響を受けたものは?」と聞かれたら、必ず自信を持って、

「プラモデルの箱絵です。あれは、優れた芸術的財産です」

と、答えていきたい。


 小松崎茂先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。


(文責:宮本 拓 200112)