
珍しく、純粋に模型に関する話題である。
先だって発売された模型誌を読んでいたら、戦車の名称に触れた記事が掲載されていた。
そのほとんどはよく知っている事柄で、おさらいをするような感覚で楽しく読ませていただいたのだが、読み進んでいるうちに昔からモヤモヤとした疑問として頭の片隅にあることがどんどん思い出されてきて、気になって仕方がなくなり、急遽コラムとしてまとめてみることにした。
ちょっと長文になってしまったが、よろしければお付き合いいただきたい。
タミヤが発売している戦車のプラモデルには、様々な愛称……いや、これじゃ語弊があるかな……つまり、商品名が付けられている。
もちろんそのほとんどは、実物の名前のとおりのもの……タイガーやシャーマン……なのだけれども、なかには――
ナゼこんな名前なのだろうか?
本物もこう呼ばれたのだろうか?
もしかして自分が知らないだけなのだろうか?
……などと不思議に思ってしまうネーミングもある。
それらのいくつかが、昔から気になって仕方がなかった。
思い切ってここでそれらについて書き、お読みなった方の中で真相をご存じの方がいらっしゃれば、ぜひご教示賜りたいと思っている。
――ワカルものと、ワカラナイものがある。
すべてを網羅すると、とてつもない長文になって収拾がつかないので、ほんのチョッピリ、代表例だけを挙げてみよう(それでもけっこうな長文になってしまった^^;)。
まずは、なんとなく「ワカル」例だ。
カッコ内は現実のコードネームまたは愛称である。
●ロンメル駆逐戦車(ヤークトパンター)
●M5A1ヘッジホッグ(キュリン・デバイス装備のM5A1スチュアート軽戦車)
●T−10スターリン(実際はJS-8より改称。固有のコードネーム無し)
●SU100ジューコフ(固有のコードネーム無し)
●バルカン(Strv103通称“Sタンク”)
ロンメルやスターリン、ジューコフは、歴史上の著名な人物の名前を付けることによってその車両のお国柄をも主張してしまおうということなのだろう。
遙か昔にはフランス軍戦車AMX30が「ナポレオン」という名前で発売されたりもしていた。実際のAMX30に固有の愛称は無い。
第二次大戦中、ノルマンディーから内陸部へ侵攻した米軍戦車隊は、その土地特有の生け垣“ヘッジロウ”に行く手を阻まれた。そこでヘッジロウを根こそぎ掘っくりかえすため、鉄骨を組んで作った巨大な「鋤」を戦車の車体に取り付けた。これは米陸軍のキュリン軍曹が発明した機具なので「キュリン・ヘッジロウカッター」とか「キュリン・デバイス」などと呼ばれ、キュリン・デバイスを装備した戦車はシャーマンだろうがスチュアートだろうが、みんな「ヘッジホッグ」と愛称された。
タミヤのM5A1の商品名はこのあたりから来ている。タミヤはそれ以前にM3軽戦車も発売しており、実際にはM3もM5もスチュアート戦車と呼ばれていたので、商品としての差別化をはかりたかったのだろうし、モノグラム往年の名作「1:32シャーマン・ヘッジホッグ」への対抗意識もあったかも知れない。いずれにせよ、小さな車体にほどよくアクセサリーを積み、勇ましいキュリン・デバイスを装着した愛すべきキットとなった。「ヘッジホッグ」はぴったりの商品名である。
ただ、ビギナーが「ヘッジホッグ」をM5A1の固有名詞だと思い込んでしまう弊害も生まれてしまったが、コレはまぁご愛敬、致し方ないことかも知れない。
Strv103は、通常“Sタンク”と呼ばれているが、日本では馴染みの薄いスウェーデン製の戦車ということもあってバルカン半島から取ったネーミングとなったのだろう。
Strv103と同じ1:48ミニタンクシリーズのT34/76は、やはり有名な地名(河川)にちなみ「ボルガ」と名付けられていた。
このへんは、わかりやすい。
――比較的最近の製品を見てみると……。
●M113バトルワゴン(M113ACAV“エイキャブ”)
●LVTP7シードラゴン(名称ナシ、場合によっては“アムトラック”)
●ハノマーク・グランドスツーカ(一部で「陸のスツーカ」と渾名された)
……といった例が見られる。
M113ACAVは「アーマード・キャバルリー・アタック(アサルトだったかも知れない。失礼!)・ヴィークル」の略である。
これで「エイ・キャブ」と発音するらしい。
米軍は伝統的に好んでキャバルリー(騎兵)という言葉を使いたがる。その略称にまたまた「馬車」を思わせる“キャブ”という言葉を取り込んで、“エイキャブ”と発音させる。ちょっとした言葉遊びだ。
タミヤの商品名「バトルワゴン」は、このあたりのニュアンスをうまくつかみ、しかも商品名としてはキャッチーな、やや派手めなニュアンスを感じさせる単語を使っていてなかなかウマイように思う。
LVTP7に限らず、水陸両用装甲兵員輸送車両がアムトラックと呼ばれるのは第二次大戦中からの伝統で、水陸両用を意味する「アンフィヴィアン」と装軌式(クローラ走行式)を意味する「トラック(軌道)」を融合させ、大陸横断鉄道アムトラックにひっかけた、これまた言葉遊び風の言い回しである。
タミヤの「シードラゴン」は、予備知識の無いユーザーにとっては、“アムトラック”ではさすがに「海から上陸してくる巨大な装甲車」というイメージが伝わりきらないので、もっと勇ましいネーミングを……という配慮からなのだろう。
その後発売された武装強化型の「アップガンシードラゴン」そして「ビッグガンエイブラムス」なども、米軍で実際にそう呼ばれているかどうかは別として、商品名としては、従来のものとの差別化をはかり、しかも「強化された最新タイプ」というのを簡潔な言葉で表現しているようで楽しい。
sdkfz.251Dのロケットランチャー装備型は、当時の兵士たちから有名な急降下爆撃機の名前にちなんで「陸のスツーカ」と呼ばれたことがあり、それをいただいた商品名となっている。
ちなみに、イギリス軍が使用したクローラ式小型多用途運搬車も「ブレンガンキャリア」という商品名で発売されているが、これは本来「ユニバーサルキャリア」であり「ブレンガンキャリア」は別の車両である。有名なイギリス製「ブレン機関銃」の名前を冠して、この地味な車両に少しでも注目してもらおうとしたのだろう。
このように、最近の製品に見られる上記のような品名や過去の製品の中でも解りやすいもの(キャッチーな人名やその車両の国籍にちなんだもの)については、どういった由来があるのかは比較的容易に想像がついて疑問を挟む余地はない。大抵の商品名は、その名前を聞いただけで納得してしまう。
――私がここ30年ばかりずっと気になっているのは、下記の5品なのである。
これが「ワカラナイ」例だ(ホントはもっといっぱいあるんだケドね^^;)。
●M36バッファロー及びM36ジャクソン(M36戦車駆逐車)
●M42ダスター対空戦車(M42自走40ミリ高射機関砲)
●M60A1シャイアン(M60A1“パットン”)
●M60A2チェロキー(名称ナシ)
●SU85ファーマー(名称ナシ)
……これらは、一体どんな由来でつけられた名前なのだろう?
米軍の対空車両には「掃除屋サン」系の愛称が付けられていた。正式な呼び名ではないが、前線の兵士たちが時折そう呼んだ、もしくは製造メーカーが命名したということなのだろうが、空をブンブン飛び回る、うるさい敵機を片っ端から撃ち落として「掃除する」といった意味合いを持っているのだと思う。
4連装50口径機関銃の電動銃座を装備したハーフトラック式のM16は「スカイクリーナー」と呼ばれたし、レンウォールから1:32プラキットが発売されていた75ミリ高射砲は「スカイスゥイーパー」と呼ばれていた。
M42は、40ミリ高射機関砲を連装で積んでいるので“ツインフォーティー”と呼ばれたりしていたらしいが、田宮の商品名「ダスター」というのは、スカイダスターすなわち「空のゴミ箱」の意味なのだろうか?
実車もそう呼ばれていたのだろうか?
まずはコレがワカラナイ。
同社ワールドタンクシリーズで発売されていたM42には「ハンター」という商品名が付けられていた。これは遠方から鳥を狙い撃ちするハンターとこの車両の任務を照らし合わせたということなのだろうと想像できるのだが……。
SU85の「ファーマー(農夫)」もなかなか難しいというか、考えようによっては「ヒネリすぎ」のネーミングのように思う。
ロシア戦車→相応しい名前→ロシアの広大な農地→純朴、愛国心、逞しさ→農夫
……なのだろうか?
ロシア製軍用機にはNATO軍特有のコードネームが付けられ、確か戦闘機にはファイターのFから始まる名称(フィッシュベッドなど……これもわかんないよね。魚の寝床って何なんだよ^^; 漁業専門用語なの?)爆撃機にはボマーのBから始まる名称(ベアなど)が付けられていたと記憶しているが、それを彷彿とさせるものがある。
しかし一体、自走砲が農夫とは……?
では、タミヤのM36のネーミングの由来は何なのだろう。
実は、コレが一番ワカラナイのである。最大の、ナゾ(^^;)
タミヤのM36戦車駆逐車(商品名では駆逐戦車)は、当初「M36バッファロー」という商品名でリリースされ、後になって「M36ジャクソン」と改名した。
当時、タミヤではこの「改名」について、「バッファローよりもジャクソンという名前のほうが一般的だったから」と説明していたと、何かの本で読んだことがある。
急に「ですます調」になっちゃいますが、コレって本当なんですか?
M36は大戦中にバッファローとかジャクソンって、呼ばれてたんですか?
これがね、ぜんぜんわからないんですよ。
基本的に、大戦中の米軍車両のほとんどには固有のコードネームというものは与えられていなかったはずである。M4シャーマン、M3スチュアートといった名称は、レンドリース法によって貸与されたイギリス軍によって名付けられたもので、前線で広く使われている間に米軍サイドにも浸透していき、そのうち正式名称がわりに使われ始めたようだ。
米軍が正式に「名前」を付けた車両は、M18ヘルキャット戦車駆逐車程度ではないだろうか。
では、バッファローもしくはジャクソンの由来は何なのだろうか?
……こういう仮説は立てられないだろうか?
M36の前身である自走3インチ対戦車砲M10は、米軍では他の車両同様に正式なコードネームは与えなかったが、貸与されたイギリス軍からは「ウルヴェリン(アナグマ)」という名前をもらっている。
90ミリ砲を装備したM36もイギリス軍に与えられたが、その数は僅かで、前線でイギリス軍によって運用されている記録写真などを見た覚えはない。
イギリスで付けられたアメリカ製車両の愛称は前線における兵士のコミュニケイションによって米軍にも定着していったのだが、M36はイギリス軍当局によって「バッファロー」という名前が付けられたものの、M36が前線でイギリス軍によって使用されることがなかったため(または極少数の使用にとどまったため)この名前が兵士たちの間で親しまれることはなく、米軍サイドまで浸透することがなかった。したがって、我々戦後世代のモデラーにとっても馴染みのないネーミングとなったのだが、タミヤはM36を製品化する際に商品名としてこの名前を使った……というのはどうだろう?
コレはあくまで私個人が考えた「仮説」であって、あまりキチンとした根拠はない。
この程度しか、考えつかないわけだ(^^;)
では、同じM36でも「ジャクソン」のほうはどうなのだろうか?
イギリス軍が米軍車両に付けた名前というのは大抵は有名な軍人、特徴的な野生動物などがほとんどで、ジャクソンも勿論人名なのだろうが、一体ジャクソンというのは誰なのだろう?
――このあたり、詳しくご存じの方、いらっしゃいますか?
特に、もしも本当にM36が「バッファロー」「ジャクソン」と呼ばれていたという歴史的事実があるのならば、そのあたりのことをまったく知らないもので、詳しくお教えいただけると、長年の疑問も解けて大変助かります。ぜひ、ご教示ください。
次に気になるのが「シャイアン」「チェロキー」である。
これはアメリカ大陸原住民の部族名で、米軍では通常ヘリコプターの愛称として使われている。ベルUH−1のイロコイをはじめとして、スー、チカソー、モハーベ、カイユースなどと呼ばれるヘリがあるし、近年では有名なアパッチ、コマンチも攻撃ヘリの名として使われている。有名なジェットレンジャーも実際には民間型の商品名であり、米軍ではカイオアと呼ばれている。
「シャイアン」「チェロキー」も試作型などのヘリの愛称となったと記憶しているが、これを戦車のネーミングとして使った意図は何なのだろう?
単にゴロがよく、しかも勇猛果敢なイメージがあるからだろうか?
それとも実際に、そんな名前で呼ばれたことがあったのだろうか?
ちなみに実際のM60は、どのバリエイションも一環して「パットン・シリーズ」と呼ばれている。
第二次大戦にかろうじて間に合ったM26はパーシングと名付けられたが、その改良型であるM46には早くもパットンの愛称が冠せられており、NATO諸国で広く使われたM47はパットンII、ベトナム戦で有名となったM48はパットンIIIなわけで、しかもモデルナンバーが48から60に変わって、形状も著しく変化しているにもかかわらず名前が「パットン」のまんまときては、様々なキットを発売していきたい模型メーカーとしては「購買者にとって違いのわかりづらい商品名は避けたい」とか「商品の管理の際、同じ名称の品物ばかりだと出荷時や注文時に混乱する」といった理由もあって、メーカー特有の名称を考えなければならなかったのではないだろうか。
しかし、戦車の名前にネイティブ・アメリカンの部族名を付けるというセンスが面白い。
それにしても可笑しいのは、タミヤが「バッファロー」「ジャクソン」「チェロキー」もうひとつ言うならば試作空挺戦車T−92に「デスロイヤー」などと、実車とは違う(または違うと思われる)キャッチーな商品名を付けると、それはタミヤ特有の呼び名であるはずなのに、他のメーカーも同じ車体を同じ名前で商品化してしまうあたり、コレはいったいどーなのよ、この名前を考えたタミヤの人はニガ笑いしてるんじゃないの? と思ってしまう(^^;)
――実はタミヤに限らず、他のメーカーの戦車模型のネーミングにも首を傾げるものがあって、考え始めるとキリがない。
ニチモが発売していた自走155ミリ榴弾砲M109は、なぜ「ボストン」なのか?
ニットーがモノグラムのキットを参考にモーターライズ化して発売したM3A1(実際にはM5A1と混同)ハーフトラックはなぜ「バトル」なのか?
2連装50口径機銃を搭載したM13自走高射機関銃(これもナゼか大抵4連装のM16と混同されてる^^;オマケに車体はやはりM5/9ベース)はなぜ「ビクトリー」という名前になったのか……?
これらの点について、私は特別否定的な態度をとっているわけではない。
むしろ、消費者の一人としてけっこう面白がっている。
ネーミングも、その商品を扱うメーカーの重要な「企業努力」だと思うからだ。
考証派のマニアは眉をひそめるかも知れないが、ほとんどは一般的には語感がよく、親しみやすい、また内容を連想してイメージアップに貢献できるような、なかなか気の利いたものが多くて楽しいとは思う。
海外の映画を日本で配給するときに“邦題”が付けられる。
本来その作品が持っている内容のイメージを損なうことなく、時代のトレンドにマッチした語句を散りばめてキャッチーなタイトルをつくろうとする苦心が見られて、楽しい。
模型の商品名もそれに通ずるところがあり、楽しませてもらっているというのが本音だ。
ただ、その由来を考えると思わず腕組みして首をひねってしまうような、ちょっとばかし難しいものも散見される。
その謎解きをするというのも楽しみのヒトツではあるのだが、どうやっても解けない謎というのはいつまでも気になってしまうものだ。
(文責:宮本 拓 200112)
☆ 追補 ☆
2002年暮れより、このコラムに関して様々なご意見をいただき、戦車のネーミングに関して新たな情報が得られました。
―― 田宮のM36戦車駆逐車に冠せられていた“ジャクソン”とは……。
南北戦争前半に活躍した南軍第1軍団長トーマス「ストーンウォール」ジャクソン中将のことではないか? とのご意見が寄せられました。
また、M42自走高射機関砲“ツインフォーティー”は、実際にベトナムの前線においても将兵たちから「ダスター」と呼ばれていたようだ……とのことです。
『マットのお気軽モデリング』のマットさん、『プラモデルの王国』の高見さん、ありがとうこざいました!
これに加えて、「チェロキー」の商品名で知られる田宮のM60A2中戦車は、その独特の砲塔形状から「スターシップ(宇宙船)」と呼ばれたこともあったそうです。
