"ゼロ・ファイター"



  先頃、田宮模型から非常に精緻な出来映えの1:32スケール零戦52型が発売された。
  1:32というと航空機プラモの分野では最大クラスに分類される。普通は手軽に作れる1:72や1:48というスケールがポピュラーなのだが、私自身は何だか、両手で持てる「お友達サイズ」という気分が嬉しくて、デカイだけに精密に仕上げるにはホネが折れることを知りつつも己の力量も顧みず、昔から1:32というスケールを愛してきた。
  そんなこともあって田宮が放つ最新1:32スケール“ゼロ”にはかなり注目していたのだが、発売されたキットは現存する実機をよく取材したうえでの設計で、航空機プラモの歴史に残る超大作キットと言える出来映えに仕上がっているようだ。

  ――ゼロ、最新作……こんなワードを頭の中でぐるぐる巡らせていたら、とある不思議な記憶に辿り着いた。

  何年前になるだろう。航空自衛隊のFSX(次期主力戦闘機)の情報がボチボチと公開され始めた頃、私の周囲、といっても模型仲間同士の極狭い範囲内で、おかしなウワサが流れた。何の根拠もなく、やや怪しい部分があったものの、その反面何とも言えないリアリティーがあって、私は半ば本気で信じていた。

  その噂は、公開されたFSXのスタイルに端を発する。三菱で作られたというその機体は、国産とは言え、アメリカ製のジェネラル・ダイナミックスF16ファルコン戦闘機そっくりだったのである。
  技術や機能、運用面の問題などの「マジメなお話」はちょっと隅に置いといて、ヤジウマ的にスタイルだけを見て、うーん、せっかく国産で飛行機つくるなら、もっと個性的なデザインにすればよかったのに……などと、模型仲間の集まった席でブツクサほざいていたら、同席していた某氏が待ってましたとばかりに口を開き、聞いたこともない「裏話」が、彼の口から堰を切ったように流れ始めた。

「今、世間に発表されているFSXはオトリだ。あれは対米政策の一環で、わざわざあのようにアメリカ製戦闘機に似たカタチをしているのだ。政府としては経済的な問題も含めて、一応あのようなものを発表せざるを得なかったのだ。実は三菱は独自に次期主力戦闘機を開発しつつある。それを西暦2000年に完成させよという三菱社内の至上命令まで出ている。なぜなら、三菱は“零式戦闘機”という名称に異常とも言える執着心を持っているからだ。三菱は何が何でも戦闘機を2000年に完成させ、この西暦を型式名に取り入れて、今まで輸入品の戦闘機に付けられていたF4とかF15という正式名称をやめて正真正銘の新生“零式戦闘機”つまり“ゼロ戦”を世に問うつもりでいるのだ!」

  ……すげーマジかよ。最新型ゼロ戦だ。コスモゼロだ。三菱はそんなことを考えていたのか! 流石に太平洋戦争中、無類の名機と言われた零戦を作ったメーカーだけのことはある。いったいどんな戦闘機が発表されるのか。ゼヒゼヒ、純和風のスタイリングで攻めてほしい……。

  ―― しかし、2000年になってもそんな発表はされず、宇宙の旅が出来るはずだった2001年になっても結局「新生零戦」は姿を見せず、代わりに田宮の精密プラモデルが出てしまった。

「……新生零戦って、ひょっとしてコレのことだったの?」
  2000年の初夏、プラモデル・ラジコンショーの田宮のブースで1:32零戦キットのテスト成型品を見た私は心の中で叫んだが、同行した皆にコイツ何を奇妙なことをわめいてやがるんだと笑われるのがイヤで、このことは今の今まで黙っていた。
  思えばあの噂は、生粋のヒコーキ愛好家である某氏の「純国産の戦闘機が見てみたい。新生零戦を見たい」という妄想の産物だったのかも知れない。
  そんなこともあって、田宮の1:32零戦キットの発売を、私としては他のマジメな模型ファンとはいささか異なった感慨を持って受け入れた。

  かなり高価なプラモデルではあるが、価格に見合った満足感を得られる内容だというのは店頭で箱を開けてパーツを眺めただけでも伝わってくる。

  ……近いうちに購入して、組み立てを楽しんでみようかと思っている。

(文責:宮本 拓 200107)