"危機感"



  90年代末に電撃ホビーマガジンが立ち上がり、思いがけず模型誌ライターという仕事に首を突っ込むことになった。長年模型趣味はやってきたが、コンスタントに原稿を依頼されるという経験は初めてでかなり緊張したものの、もともと文章を書くのは好きだし、『年少者にもとっつきやすい初歩的なノウハウから取り上げる模型誌に』という編集方針に賛同する気持ちもあり、喜んでお引き受けした。
  聞くところによれば、電撃ホビーマガジンの記事は初心者向けにまとめられたものが多いため、誌上で紹介される作例は私のものも含めて、長年この趣味を続けているマニアの方々にとってはかなり物足りないと感じる部分もあるらしい。もしも批判的なことを口にする方がいたとしても、仕方のないことだ。
  しかし、私自身としては電撃ホビーマガジンの編集方針はある意味では正しいと考えている。私自身、戦車関係の記事を手がけるときはあまり専門的な言い回しは避けて、そのアイテムがいかに面白いものなのか、そのキットの良さはどこにあるのか、難しい工作はしなくても、どうすればキットの価格以上に手軽に楽しめるのか……といったことにポイントを置いて、戦車等の軍用車両のことを知らない人々を殊に意識して書くようにしている。
  マニアックな、顕微鏡的な視点で詳細な批評をするというよりは、「それを作ることが、どんなに楽しいことなのか」が、伝えられれば、と思っている
  もっと高度で専門的な情報が欲しければ、そのような模型誌は他にもあるのだから、そちらを読めばよい、とも思う。
  ――なぜ、そんなことを考えるのか。
  これは私の精神的な自己満足にしか過ぎないのだけれど、そういった解りやすく、楽しい記事を書くことによって、一人でも多くの若い世代のスケールモデラー、すなわち“後継者”を育てることが出来ないか……という心理が働いてしまうからである。
  後継者の育たない趣味は、没落の一途をたどる。私は現在30代なかばだが、まぁ病死か事故死でもしない限り、恐らくあと30年は模型趣味を続けていくだろうと思う。しかしその途中で、しかも晩年に入ってから長く愛しつづけていた趣味の分野が消滅してしまうと、老いも手伝ってその寂しさに負けてしまうような危機感を感じているのである。後継者を育てる、そして模型趣味を存続させることは、本当は私自身のためなのだ。
  自分の趣味、“表現”の方法、フォーマットというものが消滅することほど、寂しく、恐ろしいものはない。
  私は、すでにそれを一度経験している。
  8ミリフィルムがそれである。高校時代から映画づくりに目覚め、仲間を集めて躍起になって映画を作ってきたが、80年代の中頃、すべての8ミリフィルムが生産中止になるという噂が飛び交い、顔色を失った。熱心に8ミリ映画に取り組んできた人々の中には、何とか8ミリを存続させようとメーカーに呼びかけたり、署名運動を展開したりする動きも見られたが、それがかえって「ああ、本当に8ミリは無くなるんだ」という危機感を増幅させた。
  これから何で作品を撮ればいいのか。長年培った8ミリ特有のノウハウを捨てて16ミリに乗り換えざるをえないのか。しかし、金額にしてゼロがひとつ増えてしまう16ミリフィルムを使い、プロ・ユースの機材をレンタルして映画を何本も作るほどの気力と経済力が自分にあるだろうか。ビデオの質感でフィルムの“味”を再現出来るのか……。
  自分の映画人生は80年代いっぱいで終わるんだなぁ、などと考えて、言い知れぬ寂しさに襲われた。
  ――幸いなことに8ミリは、現在でも潜在的に継続しているレトロ・ブームの影響か、90年代に入って再び若い世代に注目されはじめ、デジカムとともに映像表現のひとつの分野として今なお生き続けて、店頭では新タイプのフィルムを買うことが出来るまでになった。
  しかし、私自身としてはもうあんな寂しい思いはしたくない。せめて模型趣味だけはあと30年ばかり続けさせてほしいと心底思う。
  そのために私自身が出来ることは、新製品の内容を正しく評価して、とにかく「作って」楽しむこと。そしてその楽しさを機会をつかんでは自分より若い世代の人々に伝えていくほか無い。そんな思いをほんの少し散りばめて、私は電撃ホビーマガジンの原稿を書いている。仕事に追われ、レギュラーライターのように頻繁に執筆することは難しくなってしまったが、機会を見つけて、また若い世代向けのスケールモデル情報を書くことが出来れば、と思っている。

(文責:宮本 拓 200010)