"さらばスーパーマン"



  仕事の話をしよう。

  映像作品にもいろいろあるが、ちょっとしたドラマ仕立ての作品で俳優に出演してもらって撮るときなど、「衣装の選択」というのはその作品の世界観を構築するうえで極めて重要な要素となる。
  私自身、服装にはかなり無頓着なほうで、流行にも弱いわけだが、それを自覚しているからこそ仕事の際にはセンスのいいスタイリストと組んで、実りある助言をもらいたいと期待してしまう。

  大抵の場合は、うまくいく。
  SF的な、特殊な衣装が必要になったときでも、いろいろとスケッチを描いたりしながら打ち合わせをしていけばそれなりに満足のいくコーディネイトを完成させることが出来るし、仕事の出来るスタイリストは衣装を調達出来るいろいろな店を感心するほど豊富に知っているので、付き添ってもらって実際に見に行くこともできる。

  しかし、スタイリストも呼べない低予算作品で、とにかく自分たちで何とかしなければならないという状況になってしまうと、途端に弱い。
  その方面に関してはいたって不器用である。

  ――若僧ディレクターだった頃、私は数年間に渡ってレーザーディスク・カラオケの仕事をしていたのだが、あるときドラマ仕立ての作品の衣装としてスーパーマンのスーツが必要になったことがあった。
  東急ハンズのパーティーグッズコーナーあたりを探しゃあ、どっかあるだろうと思っていたらアテが外れて、どこを探しても置いていない。
  こうなれば自作するほかないということになり、自分たちで探して青い全身タイツを調達することになった。

  渋谷に、チ○コ□トというレオタード専門店がある。
  演劇や社交ダンス等の衣装を揃えられる店らしく、初めて店に入った我々は物珍しさもあったが、店内にあふれるムッチリムチムチ、金ラメ銀ラメ30年前の少女漫画状態全開臨界点メルトダウン系の色彩が施された大量のレオタードを目の当たりにして豆鉄砲くらったハト状態だった。
  視界すべてが、ニギヤカすぎる。
  にこやかな店員のお嬢さんにうながされて品物を見始めたものの、目ぇがチカチカするばかりでラチがあかない。

  結局はお嬢さんを呼んで恐る恐る……
「ブルーの全身タイツとベルトが欲しいんですが……」
  と、尋ねた。

  品物を持ってきてくれたお嬢さんは、私たちに向かってにこやかに言った。





「試着なさいますか?」




  ……………違うんだよハニー。
  俺たちがソレを着て喜ぶわけじゃないんだ。
  よく見てごらん、俺たちを。無精ヒゲに小汚いTシャツ、破れジーパンにスニーカーだぜ。この男たちが試着室に入って数分後にカーテンをシャッ! と開けると目にも鮮やかな全身タイツ姿でシャバドゥビダなポーズでも取ると思ったのかい?

  ところが悲しいことに、こういう場合は弁解をすればするほど自らの立場が悪くなる。アカラサマに弁解するといかにもまずいので、何とか平静を装いつつわざと店員に聞こえるように声を大きめにして、場慣れした人間が(まるで不自然このうえないのだが)世間話をしているような雰囲気で、

「いやぁ、我々が着ると思われるとちょっと恥ずかしいですねえ。ただの映像関係のスタ ッフだってぇのに」
「そうだねぇ、我々は撮る側の人間だから、こんな衣装を着ることは一生無いかも知れな いねえ。なんてったって我々ではなくて、役者さんに着てもらうわけだからねえ」

  ……などと言ってみたところで、店員のお嬢さんの、

『このきったない格好のイイ歳こいたオニイサンたち、一所懸命ごまかしてるけど男同士でコレ着て何するつもりなのかしら?ふふっ』

  ――といった意味を確実に内包しているチラリ目線と「ふふっ」の前には、もはや何を言っても意味をなさない。
  世界最強の「ふふっ」なのである。
  もう、いけない。

  こんなときほどスタイリストの存在をありがたく思い、恋しくなることはない。
  スタッフ編成というのは、実によくできているものだと思う。
  無理すりゃ少人数でもモノはつくれるが、「餅は餅屋」という言葉がある。
  餅屋に任せれば、ハジもかかないのである。


(文責:宮本 拓 200006)