
古いハナシだが、94年の初夏、仲間たちと一緒に初めての模型展示会を開催した。
烏山の公共施設の一室を借りて行った小規模なものだったが、色鮮やかな航空機やいかつい軍用車両、丁寧な仕上がりのレーシングカー等を大量に展示して、アットホームな雰囲気を心がけた甲斐があっておおむね好評だった。模型好きのマニアの方が訪れてくださったのは言うまでもないが、私の仕事上の付き合いがある映像製作関係の方々が知人、友人に声をかけてくれたので、こういう展示会には珍しく女性客の姿が目立った。彼女たちは模型に特別興味があるわけではなかったのだが、何か、美術工芸品の展示会を訪れたような感覚で作品を眺めているようだった。
この日来てくれた某社営業部長と交わした会話が、ひどくインパクトのあるものとして私の脳裏にずっと残ったままである。
会場の隅に私を呼んだ某社営業部長は、連れてきたお嬢様がたをチラリと見ながら曰く――
「ミヤモっちゃん、まずいよ」
「え、ナニがですか?」
「彼女たちさ、面白い面白いって見てるんだけど、アレが作ったもんだってのがわかんないのよ。こんなの、どこに売ってんの? とか言ってる」
「はぁ?」
「だから、プラモって組み立てて色を塗るじゃん。あんたら、それにいろいろ手を加えてリアルに作ったりするでしょ。それがわかんないんだよ。展示してあるものが、そのまま売ってるもんだと思ってる」
「え、じゃどうすれば……」
「だから、こういう展示方法じゃあ、フツーのヒトはわかんないのよ。どんなに凄いもん作ってもサ。完成品の横に、作ってない部品のまんまのヤツが置いてあって、これを作って色を塗って、場合によっちゃあ本物の資料見て手ェ加えて、みたいな工作途中のが置いてあって、そしたらホーラこんなのが出来まっせとか、そんなふうな展示がひとつでもいいからどっかにないと、わかんないのよ」
「ふーん、ふーん」
……結構、ショックを受けてしまった。そうだよなぁ、我々はもう四半世紀もプラモに親しんでいるから、そんなことは皆わかっているもんだと思い込んでしまっていた。
これが、本当にマニアに限定したハイレベルな展示会ならば問題なかろうが、我々はもっとファミリー向けというか、プラモなんて作ったことのない人にも来てもらいたい、出来ればこの展示を見て興味を持ってもらいたいなんて考えていたものだから、自分の気配りの足りなさをガツンと言われたような気分だった。盲点だった。
そこへ、ダメ押しの会話が加わった。
会場に展示してある作品は、1:72や1:48の航空機、1:35の軍用車両、1:24の自動車がメインで、スケールごとに分けて展示してあり、それぞれの作品にはスケールや品名を書いた簡単なプレートを添えておいた。一部にSFキャラクターものも置いてあったが、珍しくスケール物ばかりを熱心に、食い入るように見ている女性がいたので、思わず声をかけた。で、その会話だが――
「いかがですか? 結構面白いでしょ」
「ハイ。この説明書きの分数は何ですか?」
「スケールです。縮尺ですよ。地図みたいなもんで、実物の何分の一かの表示です」
「そうですか……。縮尺ってバラバラなんですね。これじゃ大きさがわからないナ」
「えっ、いやいや、統一スケールなんですよ。おっしゃるとおり、並べたときに大きさとか形の違いがわかったほうが面白いですから。一応、国際的に統一された、代表的なスケールってのがあるんですよ」
「でも、このヒコーキが1:48で、あの戦車1:35でしょ。それに、何でこんなキリの悪い数字なんだろう……」
――そうきたか! と、思った。縮尺が半端に思えるのはフィートとかインチの関係がナンタラで、戦車とかは昔モーターで走るヤツが出てたときに電池とモーターが入るスペースが云々……まぁ、出来るだけわかりやすくご説明申し上げたのだが、彼女が言っているのはもっと根本的な問題なのである。盲点だった。やはり、そうだよなぁ、である。
とは言え彼女が口にしたことは、実は私も常々思っていたことでもある。
プラモデルには「机の上に置いただけで、大きさや形の比較が出来る」という楽しみ方があり、これはかなり重要なことではないかと思う。しかし、飛行機が1:48、戦車が1:35というように、ジャンルによってスケールが極端に違っていたのでは、比較のしようがない。一般の人々からすれば、例えば我が家のスカイラインとドイツのタイガー戦車って、並べるとこんなに大きさが違うんだ、とか、都営バスと比べると確かにドラゴンワゴン戦車運搬車ってデカイんだなぁとか、そんなふうに比較出来るのが一番楽しいわけである。よく子供向けの図鑑等に、横浜ランドマークタワーと東京タワーを並べて、新幹線と大型タンカーを縦にして並べると、こんなに違いますヨ的なイラストが載っていたりするが、それを立体で、しかも手にとって比べられるのが縮尺模型の楽しみの「根本」なのではないか、という気がしていたのである。もちろん、実物の大きさがあまりにも違いすぎるものを同一スケールで並べるのは無茶ではある。1:24のファミリアの横に同スケールの戦艦大和を置いたら、部屋の中には入りきらない。しかし、ある程度の範囲内で、ジャンルの異なるアイテムが統一スケールで楽しめるというのは、結構大事なことではないかと思う。昔は、そういう気配もあったんじゃないかな。米国レベル社は1950年代から1:40で軍用車や航空機、一部の民間車両等を出していたし、モノグラムやエアフィックス、リンドバーグ等であれば1:32で軍用車、民間車、航空機、そして小型船舶まで揃った。これを極限までつきつめたのがNゲージ1:150やHOスケール1:87の鉄道模型だったりして、これだったらクルマや飛行機どころか、街そのものを模型で再現出来たりする。
……思うに、こんなことを考えるのは私が「映像畑」の人間だからかも知れない。特撮で使うミニチュアは、無論パースを強調した絵作りをする場合は各種の異なった縮尺のミニチュアを組み合わせて使うが、基本的には統一スケールで車両や家屋等、ひと揃いあるのに越したことはないし、そのほうが世界観を創りやすい。
しかし、純粋に「模型趣味」の分野に限って言っても、一般の人、つまりプラモデルに関して何の予備知識の無いヒトにとっても、キリがよくて分かり易く、また作りごたえ等を加味した1:40くらいのサイズで、民間の車両、戦車、航空機、ある程度の大きさまでの艦船、適度な大きさの建築物や、良くできた人形が沢山コレクション出来るといいのに、と思うことがある。一昔前ならば1:48や1:72スケールで航空機や軍用車両が出ていたので、その後の広がりに望みをかけることもできたろうが、今ではちょっとムリ。戦車の代表的スケールである1:35でベトナム戦のボートやヘリが出ているから、今後の展開に期待したいところだが、逆により専門的な分野のスケールとなりつつあるのでこちらもムリだろう。
時間と財力があれば、自分でキットメーカーでも立ち上げて……う〜む、1:35で大量に精密な航空機をラインナップするのは難しそうだから、1:48で海外の軍用車両モデルの輸入販売をしつつ、同スケールで自社開発のレジン/金属パーツ混合キット、欲を言えば簡易インジェクションでの精密な軍用車両と民間車、またジャンルの壁に拘束されずにパトカーや消防車、クルーザーやタグボート等を出してみたい。子供たちにも楽しんでもらえるように、半完成キットでもいいかな。そこそこ買い集めるとミリタリーものは勿論、現在の地方都市の一角くらいは手軽にディオラマ再現出来るくらい、アクセサリーやストラクチャーのアイテム数を増やして……いやはや、壮大な夢だネ。
(文責:宮本 拓 199910)