何年か前の話だが、ある雑誌で「最近話題のオトナのオモチャ」といった特集をやるからというので、取材を受けたことがある。オトナのオモチャというと何とも人聞きが悪いが、要するに社会人になって“中堅どころ”あたりの世代が、一体どんな趣味を楽しんでいるかというような特集で、模型趣味に関してのコメントを求められたわけである。
で、ハタと考えた。かれこれ四半世紀、この趣味を続けてはいるが、私自身なぜ飽きもせず作り続けているのか、真面目に考えたことがなかった。せっかく取材を受けるのだから、多少は気の利いたことのひとつでも言いたいと思い、自分なりにこの趣味というものを考え直してみることにした。「そりゃあ、詭弁だ」「カッコつけすぎだ」と嘲笑されるのを覚悟で、この時考えた模型趣味についてのコメントを、補足説明も加えつつここに再録してみようと思う。
コメントの主旨は、こんなふうだった……。
――模型、つまりプラモデルという趣味には、スポーツと音楽以外の、あらゆる趣味の「遊べる」要素が含まれており、続ければ続けるほどその魅力を満喫できるし、飽きることがない。その「あらゆる趣味の要素」とは、おおまかには五つに分けられる。
1 『つくる』という楽しみ
プラモデルは「イージー・トゥ・アッセンブリ・キット」と表示されているように、誰もが特殊な工具や技術を必要とせず、自分の手を実際に動かして工作を楽しむことができる。
2 『集める』という楽しみ
何かを集めるというのは、趣味の大きな醍醐味である。コレクションする……時代をさかのぼって、現代に至る自動車、航空機、船舶等、あらゆるジャンルのアイテムを集めて、机上にミニ・博物館をつくることだって出来る。
3 『調べる』という楽しみ
インジェクション成形の大量生産品であるプラモデルは、いかに精密に再現されていても、製造上の理由や、また発売時期の古いキットだと実物の資料が乏しくリサーチがやや不足しているものもあり、実物とくらべると細部が省略されていたり、形状が異なる部分があったりする。それを自分なりに資料を集め、様々な材料を使って工作し、リアリティーを補ってやると完成度が増す。このリサーチ作業は考古学的な楽しみもあり、模型趣味単体にとどまらず歴史的な知識や国民性の違い等も含む文化論的なリサーチにまで発展することもあり、非常に興味深い。また良くできたキットを作るとその工作過程を通じて今まで知らなかった実物の構造や機能を再発見できて、ますます興味が増すこともあり、これもプラモデルの大きな魅力である。
4 『描く』という楽しみ
プラモデルをリアルに作るためには塗装が不可欠だが、これは指定の色のスプレーを買ってきてシュッと吹きかければよいというわけではない。プラモデルは文字通りプラスチック製品だが、モチーフとなった実物の車両や航空機は様々な材質の組み合わせで出来ている。鋼鉄、強化プラスチック、布……それらの「質感」を塗装で表現するためには、場合によってはシャドウやハイライトを強調するなど、絵画的な表現をする必要も出てくる。“塗る”のではなく、まさに“描く”感覚である。その表現が自分なりにうまくいったときの満足感は大きい。また、塗装に使う材料についても、プラモデル専用のプラカラーの他、油絵の具やアクリルガッシュ、パステル等、自分で「これは」と思う画材を発見して効果的に、そして自由に使い、他人の作品とはまた違う作風をモノに することも出来る。その試行錯誤がまた楽しい。
5 『観る』という楽しみ
組み立てていないプラモデルは「ただの製品」かも知れぬが、誰かの手によって組み立てられ、塗装して完成させられたものは、大なり小なり作り手の個性が発揮されて、「作品」に昇華される。各地で開催される同好会等の展示会では、それらの「作品」を、まるで画廊で絵画を鑑賞したり、美術工芸品を観たりするのと同じように楽しむことが出 来る。
――そんなコトをつらつらと述べた。幸いにも誌面ではライター氏が内容をうまくまとめてくれて、私の真意は伝わったようだった。
ただこれは、多分に「大人の趣味」という特集の主旨を汲んでのことであり、プラモデルの楽しさは、もちろんこれだけにとどまらない。他にもこの趣味の本質的な楽しさ、面白さは数多い。
例えば……
6 『操る』という楽しみ
近年、ラジコン等の技術が発達して、昔とは比べ物にならぬほど精密感のあるラジコンモデルが安価で登場しており、また市販の無可動キットにラジコンパーツを組み込んで動かすことも出来るようになってきている。童心に帰って、自分の作った模型を操作するのは本当に楽しい。
7 『競う』という楽しみ
ゲーム、である。リモコン、ラジコン、モーターライズの模型の「動く」特性を生かしてのレースやバトル……。これもまた童心に帰れるひとときである。子供たちにとっても単純にエキサイトできる楽しさ。また動力を内蔵しないディスプレイモデルでも、その腕前を競うコンテストでは、じっくりと腰を据えて趣味を楽しんでいるという醍醐 味が味わえる。
8 『撮る』という楽しみ
自分なりに工夫して、模型を使って「特撮」を楽しむことも出来る。ちょっとした映画監督気分が味わえる。
9 『憧れに接する』楽しみ
SF映画、アニメのキャラクターなど…胸ときめかして観た作品に登場するアイテムを立体化して手元に置き、じかに接することが出来る。
10 『資料』として活用、楽しむ
漫画を描いたり、CGを作成するときの立体資料、または合成用の素材としてアーティスティックに楽しむことも出来る。

――といった楽しみ方も考えられるだろう。
いささかコジツケめいたところもあり、無理矢理10項目に分けた感じがなきにしもあらずだが、つまるところ私が言いたいのは、あらゆるアプローチで「遊べる」のがプラモデルだということだ。
言い換えれば「自由に遊ぶことの出来る、工作のための上質な素材が箱の中にパッケージングされている」のがプラモデルなのである。
遊ぶ、素材なのである。
ここで私がサラに、恥ずかしげもなく声を大にして言いたいのは、今挙げた10個の「趣味としての醍醐味」は、年齢、性別にまったく関係がないということである。ちょっとでも興味を持てば、誰にでも手軽に楽しめる趣味だということだ。特に少年たちには、本能的な部分をもくすぐるこの楽しさをもっと味わって、存分に遊んで欲しいと切に願っている。
昔に比べればやや高価になったとは言え、戦車のプラモデルが一台完成するまでコツコツと一週間……凝り始めたらキリがなく、一ヶ月、半年と楽しめて、完成後は世界にひとつしかない自分の「作品」として眺め、遊び、集め、長く手元に置いておくことが出来る。
……四半世紀以上、やめられないハズである。
(文責:宮本 拓 199805)